いろいろとゲームを語ろう

物好きなゲーマーがただただ最近遊んだゲームの感想とか内容とか書いていくブログ。レトロゲームの割合が高いかもしれない。更新は気が向いた時にだけ。

『スーパー32X』について語る

(スーパー32X専用ソフト『カオティクス』)

16bit…実に良い響きだ。16bitとは即ち高性能の証、希望の象徴、新時代の到来を示すワードであった。『ビット』が増えることで何が変わるのか、当時の客層がちゃんと理解していたのかは甚だ疑問ではあるが、『16bit』という未来への羨望をその身に刻みSEGAの16bitゲームハードメガドライブは世界へと羽ばたいていった。メガドライブは戦った。戦って戦って戦い抜いた。アーケードの雄NEOGEO(SNK)と、有力タイトルを擁するPCエンジン(NEC-HE)と、そして先祖代々の宿敵(ライバル)スーパーファミコン(任天堂)と。

戦いの中で数々の名作も生まれた。世界に誇る音速の青いハリネズミソニック・ザ・ヘッジホッグ王道ファンタジーシャイニング・フォースセンス抜群なベルスクベアナックルを筆頭にファンタシースターIIスペースハリアーII』『スーパーファンタジーゾーンゴールデンアックスなどの前世代機SMSから続く続編/アケゲー移植も多数、メガドラらしいキワモノタイトルでは全編通してバカゲー臭の中に確固たる面白さがあるレンタヒーローやおそらくRPG史上初の腹上死する主人公ヴァーミリオン、バイオレンスだったりグロテスクさで突き抜けた『ジ・ウーズ』『クライング 亜生命戦争』などなど…。

(スーパー32X専用ソフト『TEMPO』)

しかしながら、時代の波には抗えずメガドライブにも引退の時が近付きつつあった。後継機セガサターンの登場である。次世代機戦争が目前に迫り、いよいよ世代交代を考えなくてはならなくなってしまったのだ。…だが残念なことにメガドライブの引退は認められなかったSEGAにとって肥大化したメガドラの市場は棄てるにはあまりにも惜しかったメガドラの戦いぶりは見事なものであった。…見事すぎた。とりわけ北米市場においてマリオやドンキー、ゼルダ有する任天堂と互角以上の戦いを繰り広げたGenesis(北米版メガドライブ)の姿SEGA本体の目をも曇らせ、そして内部分裂させてしまうほどに凄まじいものであったのだ。

だからこそSEGAは判断を誤った。新たな強敵プレイステーション、宿敵ウルトラ64(ニンテンドウ64)、32bitの先駆者3DO、再起を狙うAtari Jaguar、更に他ならぬ自社のセガサターンが集う新世代のゲーム業界に、あろうことか前世代機のメガドライブまでもを投入してしまったのである…。

さて、(かなり脚色を加えてしまったが…)1994年のゲーム業界についてザックリと触れたところで今宵もゲームを語るとしよう。今宵語る作品…否、製品はスーパー32X、なんというか…良い意味でも悪い意味でもSEGAを象徴するゲームハード…というより周辺機器である!自分で言うのもアレだがなんで我がブログで語る対象は大体アレな代物なんじゃろか。
(ディスクシステムバーチャルボーイ→VitaTV→サテラビュー→コレ)

まずは前提知識としてSEGAの16bit機メガドライブから紹介していく。皆様ご存知(?)の通り、メガドライブとはSEGA1988年に市場へ投入したゲームハードである。SG-1000/1000-II、マークIII/マスターシステムから連なる系譜であり、メガアダプタという周辺機器を用いることで旧世代との互換も実現していた。地味ながら昭和最後のゲームハードでもあったりする。

同世代の据え置き機、つまりライバルといえるのは同じように周辺機器やバリエーション機で進化していくNEC-HEPCエンジンアーケードの再現度も費用も比較にならないほどお高いSNKNEOGEO、そして終世の好敵手こと任天堂スーパーファミコン。発売当初こそソフト不足に悩まされた(発売年にリリースされたのはスペハリII等4本のみ)が、最終的には上に挙げた作品のように所謂コアな層が好むゲームが多数生まれるに至り、日本ではスーパーファミコンに打ち勝つことこそ敵わなかったが、独自の人気を獲得するに至ったハードである。特に北米市場においては青いハリネズミの存在もあってSNES(北米版スーファミ)を凌ぐほど絶大な人気を誇っているだからこそ後述の悲劇に繋がってしまったのだが…。

さてさて、今宵メインで語るスーパー32Xはそんなメガドライブに取り付けることで動作する周辺機器である。価格は16,800円メガドライブが1988年発売だったのに対しこちらのスーパー32X1994年発売。即ちメガドラ市場が末期になってからのタイミングで送り出されたものとなる。もっと厳密に言うと発売日は1994年12月3日、コレは日本におけるセガサターン発売よりも後の日付である。…そして1・2・3の語呂合わせでわかる人は既に察しているかもだが、かのSCEプレイステーションと同じ日に誕生した代物でもある。

プレステVSサターンの32bit次世代機戦争において16bitの旧世代機であるメガドライブを戦わせるのは流石に力不足。というわけで性能面の遅れをカバーするために開発されたのがこのスーパー32X、公式がいうにはメガドライブを32bit機に拡張するアップグレードブースター』とのこと。

ちなみにメガドライブには容量や演出を強化するためのCD-ROMドライブメガCDも本機よりも前に発売されている。32Xが話題になる時は専ら後述するメガドラタワーの形態ばかりが取り沙汰されるのでちょくちょく勘違いされがちなのだが、スーパー32XメガCDはそれぞれ別個の存在ゆえ、メガドライブ本体さえあればスーパー32X及び32X用ソフトの動作は問題なく可能である。

(右上の箱がメガドラではなくメガドラミニだと気付いた貴方はメガドライバーの鑑である)

ここからはいよいよスーパー32Xについてガッツリ紹介していくつもりだが、その前にひとつ注意書きを。我が家のメガドライブ環境メガドライブ+メガCD2+スーパー32Xという準メガドラタワーである。初期のメガCDゆみみみっくす』を飲み込んだまま故障してもう動かず、メガドライブ2に至ってはそもそも一切触ったことがない。そのため、純正メガドラタワーやメガドラ2に纏わるケースと比較するとやや問題がある記述もあるかもしれないが、そこはどうか許していただきたい。

スーパー32Xそのものの外観はかなり簡素。背面にケーブルの差込口があり、上面にはスーパー32X用ソフトの差込口、本体下側にはメガドライブ本体と接続するための端子がある。メガドラ本体との接続を行う場合は32X本体をメガドラのカセット差込口に直接差し込むことになる。端子が横方向にあるメガCDに比べればシンプルでわかりやすい。接続先がメガドライブ2の場合は同梱されているスペーサーも必要。増築の折にメガドラアイデンティティたる16bitが隠れてしまうが、32X本体に『32X』が刻印されているので無問題。
(…と思ったがこの記事のために久々に引っ張り出したら消えかけてる…)

とはいえシンプルにメガドラの上に32X本体を挿し込んだだけではまだ動かない。コイツの動作には同梱されているケーブル群を32X本体の背面に接続しなければならない。32X本体から伸びたケーブルの先にあるのはメガドライブ本体、TV画面、そしてコンセント。つまるところメガドライブ本体とは別にもう一つコンセントからの給電が必要になる。もっともACアダプタ2つくらいならちょい不便なくらいで済むし問題あるまい。

またTV出力は通常のメガドラと同じくRCA端子(三色端子)によって行われるが、規格が異なるためメガドラのケーブルを流用することはできない。より厳密にはメガドラ本体の映像ポートからスーパー32X本体に専用のケーブルを繋ぎ32Xの映像ポートから伸びるケーブルをTV画面に繋げる…というちょいとわかりづらい構造。すっげぇ個人的なハナシをすると我が家のメガドラRCAケーブルはモノラル用のものしかなかったため、旧メガドラのゲームでもステレオで楽しむためには32Xを使う必要があったりした。

この時点で『だいぶややこしいな…』と思うだろうが、実際その通りなので仕方あるまい。コヤツは我が家のゲームハードの中でもトップクラスでセッティングが面倒なハードなのだ。しかもメガドライブ+スーパー32Xだけならまだ可愛いもので、ここにメガCDを取り付けるとなると更に背面のケーブルがカオスなモノに早変わりACアダプタに至っては本体・メガCD・32Xのそれぞれで合計3個も必要になる。ここまで来るとセッティングも片付けるのも一苦労であり、『いつでも遊べるようTVの前に鎮座させておくぜ!』くらいの気概がないとだいぶ厳しいモノがある。

(後ろのカレンダーが示す通り在りし日の我が純正メガドラタワー)

そして本体メガドライブCD-ROMドライブメガCD本記事の主役スーパー32Xを装着した完全体メガドライブはあまりにもゴツく、そしてデカい。その姿はメガドラタワー』と後生の今でなお語り継がれているため、メガドラに詳しくなくともその存在を知る人は多かろう。物理的な高さを求めるならばロックオンカートリッジ*採用のソニック&ナックルズ』もどうぞ。

*ロックオンカートリッジ
本家ソニック5作目『ソニック&ナックルズ』のカセット特有の仕様。
本作のカセットのみ他のメガドラカセットと形状が異なり、
なんとカセットの上に更に別のカセットを差し込めるようになっている。
身も蓋もないことを言うと容量不足により
ソニック3』を前後編に分割して販売せざるを得なくなったことによる苦肉の策。
ソニック3』を差し込むことで完全版ソニック3をプレイできるようになるのだが、
ソニック1』『ソニック2』でも専用のゲームが起動する。
(それ以外でも一応スペシャルステージがプレイ可能)

(スーパー32X版『スペースハリアー』)

ちなみにメガドラタワー状態の本機はメガドラMC68000Z80が1基ずつメガCDMC68000が1基32XにSH-2が2基CPU5基載せとかいうゲーム史でも稀にみる変態ハードへと成り果てる。まぁこの時代のゲームハードは周辺機器での増設上等なモノが多かったのでメガドラだけが特別おかしいものではなかった点は伝えておきたい。…増設が外部ユニット1つ程度だった他所と違ってこっちは(ほぼ)全部乗せ可能だったせいで有名になったところはあると思う。

…なにはともあれ家庭用ゲーム機の中でもとびきり面倒なセッティングを終えることで、ようやくスーパー32X専用ゲームをプレイできるようになる。スーパー32X用のゲームは専用のROMカセットとして販売、その形状はメガドライブ用のROMカセットと異なるため一目で判別可能…と言いたいところだが、北米版メガドライブことSEGA Genesis用カセットに近い形なので、ソレと混じるとちょいとややこしい。ちなみにスーパー32X用ソフトの箱はメガドラとは違い紙箱ゆえに保存が大変だったり。

(左がメガドラ、右下がGENESIS、右上がスーパー32X用のカセット)

スーパー32Xを接続している状態でもメガドライブ用のROMカセットは変わらず挿入可能、ゆえに32Xの使用中は『メガドラ用』『32X用』という2種類のカセット(+メガCD接続時はCD-ROMも)が使用できることになる。あまり話題にならない地味なポイントだが、通常のメガドラカセット使用時にも32X側の端子を利用することになるため、無改造でもある程度のSEGA Genesisのカセット*を使用できるようになるという利点もある。

*メガドライブのリージョンロック
カセット式のゲーム機ではよくあることだがメガドラのリージョンロックは
その大半が『カセットの形状が日本と海外で異なる』といった方法で行われていた。
より具体的には日本のメガドラジェネシスのカセットを差し込もうとすると、
本体側のカセット固定アームが引っ掛かり刺さらない。
32XでGenesis用ソフトが挿さるようになるのはアームを物理的に無視できるのが理由。
ちなみに後期に出たメガドライブ2はこのアームが元より存在しないらしいため、
スーパー32Xなしでも海外カセットが使用可能とのこと。
なおコレはソフト的にリージョンロックが存在しない例での話であり、
ソフト側でリージョンチェックが用いられる作品の場合はプレイ不可能。

スーパー32X用ゲーム…それは従来のメガドライブでは決して味わえなかったハイクオリティなゲーム群!それもそのはず、なんてったって本機に積まれているCPUはセガサターンのソレと同じSH-2なのだから!!スーパー32X本体の箱裏面や説明書ではメガドライブ+メガCD+スーパー32Xというメガドライブ完全体…メガドラタワーでしか動作しない究極の『スーパー32XCD』用ソフトの存在にも触れられており、さぞ未来にも期待を持たれていたことだろう。

特にこの恩恵を受けたのはアーケードからの移植タイトル郡。言わずもがなSEGAは過去アーケードで数々の名作を手掛け、数多のメーカーがソレを移植してきたワケなのだが、従来のCS機ではアーケードの再現を諦めざるを得なかった。それもこれもCS機のスペック不足が原因である。16bitの性能ではその魅力を再現するに足らず、移植担当のメーカーはCSならではのアレンジを加えなくてはならなかったのだ。…だがしかし、スーパー32Xの性能があるのであればハナシは別

(スーパー32X版『DOOM』)

次世代機相当の32bitスペックの効果は絶大!スペースハリアーを筆頭に、アフターバーナー・コンプリート』バーチャレーシング デラックス』などなど、念願の(ほぼ)完全移植を成し遂げたタイトルが多数誕生するに至ったのだ!末期には驚くことに同時期のSEGAの顔にしてセガサターンの代表作バーチャファイターの移植まで!
(GenesisでもバーチャIIの移植はあるがドット絵のあちらと違い、こっちはポリゴン)

ちなみにローンチタイトルはスペースハリアースターウォーズ アーケード』DOOMの3本、少し遅れてバーチャレーシング デラックス』も含めた4本が事実上の最初期ラインナップである。ところで『DOOM』はとりあえず画面さえあれば移植されるほどに数々のプラットフォームに移植されることで有名なFPSの始祖のひとつであるが、実は(少なくとも公式において)家庭用ゲーム機に移植された最初の『DOOMこのスーパー32Xだったりする。

(スーパー32X専用ソフト『カオティクス』)

もちろんスペックを生かしたタイトルはアーケードの移植だけに限らない!ビジュアル面にセンスが溢れ出るレッド・エンタテインメントが手がけた『TEMPO』ポリゴンで描かれた宇宙空間を飛び回る3DSTG『ステラアサルト』、そして外伝作でありながらこの時代における唯一の本家ソニックシリーズの系譜カオティクス!!

特にカオティクス』は我にとっても特別イチオシの作品であり、レベルデザイン・システム・BGM・グラフィックの全てのポイントにおいてソニックシリーズの中でも最高峰といってもいい超・名作である。本作についてはいつの日かガッツリ語る予定であるが、ひとつだけ言っておくと今のところスーパー32X以外でのプレイ手段は存在しないため、カオティクスのためだけにメガドラ本体と32X本体をセットで購入しても損はないぞ!

…ところで移植の話が出たのでついでに触れておくと、スーパー32Xは元々のあまりに変態的な構造のせいかエミュレータ等による再現が困難であるらしく、後年のバーチャルコンソールSEGA AGESシリーズでも拾われることもなければ、最大のチャンスだったであろうメガCDも収録されたメガドライブミニ2』であってもスーパー32Xのタイトルは全スルーされてしまった。おかげさまで2023年現在ではスーパー32Xのオリジナルタイトルの大半が移植の機会を得られていない。隠れた傑作が多いだけに実に勿体ない。

(スーパー32X版『スターウォーズ アーケード』)

…でもってこのスーパー32Xがどのような運命を辿ったかについてなのだが…まぁ後世の歴史が証明するようにヒットとはいかなかった。というより少なくとも日本市場においてはヒットする要因がハナから全く感じられなかった。なんせメガドライブ自体が日本国内で2番手・3番手の状況の中、ただでさえ本体で21,000円(メガドラ2なら12,800円)のところ、32Xの僅か3年前/2年前に本体価格を越える49,000円/29,800円メガCD/メガCD2が出ており、ここから更にまた16,800円の周辺機器を出されて歓迎する人はそういない

ましてや当時ポテンシャルが未知数であった同日発売のPS1はさておくとしても、スーパー32Xよりも前にメガドラの次世代機であるセガサターンが発売しているのだ。しかもサターンの発売から32Xの発売までのスパンは僅か12日。44,800円の新ハードと16,800円の旧ハード用周辺機器を僅か1ヶ月もしないうちに買い揃える…訓練されたセガマニアとてソレができる層は限られる。メガドラ本体を既に所有していると仮定しても『32Xかサターンのどちらか一方のみを購入する』という思考に至るのが一般的なのは言うまでもない。…そしてこの時点でメガドライブ自体は6年も前に誕生した旧世代機…いくら価格面での優位が32X側にあったとしても、ゲームへの知識が乏しいユーザーから見てもどちらに未来があるかは一目瞭然である。普通こういう比較は他社ハード相手に行われるものなのだが、32Xとサターンは自社ハード同士で比較されるというレアなケースに陥っている。

(スーパー32X専用ソフト『TEMPO』)

ソフトメーカーからも早々に未来がないと判断されたのかラインナップも勢いがあったのは最初だけ。当初パンフレットに載っていた発売予定タイトルも開発中止、或いは他ハードでのリリースとなり、結果として日本国内で販売されたスーパー32X用ソフトは僅か18本に終わる。コレはあのバーチャルボーイよりもギリギリ少ない。

箱の裏面やマニュアル等でその存在が語られていた『スーパー32XCD』用ソフトに至っては、そもそも日本では1本たりともリリースされることはなくマボロシと消えた。一応メガドラ市場が非常に強かった北米などでスーパー32XCD専用ソフトは販売されはしたが、やはり数としては多くない。なお本来32XCD用として開発されていたタイトルは全てがお蔵入り…というわけではなく、対応プラットフォームをメガCD向けにダウングレードしたり3DO向けに切り替えることで日の目を見た作品は一定数存在するらしい。ただこっちはあんまり詳しくないので間違ってるかも。ちなみに日本のメガドラタワーで32XCD用ソフトが動くのかについては試してないので知らぬが、メガCDを使う以上リージョンチェックで弾かれる気がする…。

(スーパー32X版『アフターバーナー・コンプリート(ABIIの移植)』)

目玉の一つとされたアーケード作品は数年もすれば軒並みセガサターンにも移植された。元々が相当の無茶であった『バーチャファイター』は仕方ないとしても、スペースハリアーアフターバーナーII』など『32Xでついに完全移植に成功したぞ!!』というタイトルは、セガサターン版の方が再現度もクオリティも高いとされてしまい、32Xは如実にサターンとの差を見せつけられることとなってしまった。一応カセットゆえにロード時間という一点に限り優位に立てたり、バーチャレーシング』は32X版の時点でオンリーワンの要素が付加されていたりはしたがハッキリ言ってそれ以外は完敗である。

スーパー32Xは確かに16bitのメガドライブを32bit機相当に押し上げるチカラを持っていた。だが所詮は16bitハードの周辺機器32bitの次世代機にギリギリ食らいつくことはできても、そこから共に並び歩むことはできなかったのだ。

結果的にスーパー32Xは周辺機器であることを加味してもかなり短命に終わっており、プラットフォームとしてみれば失敗したのは間違いない。だが元より大して相手をするつもりはなかったであろう(発売まで漕ぎ着けてる時点でコレは言い過ぎか)日本市場での失敗くらいならばさほど痛手ではなく、無傷とまでは言わないがその影響は軽微であった。…問題だったのはよりにもよってメガドラの本場たる北米である。こと北米においては元となったメガドラ市場が強すぎたがためにスーパー32Xの失態によるダメージが甚大、その影響はこの世代だけでなく次世代以降にまで響くレベルであったのだ。

結局のところSEGAはどうすればよかったのか?情もへったくりもないことを言ってしまうと『そもそも32Xを作らない方がよかった』という結論になる。一応フォローしておくが次世代機が開発されるまでの繋ぎとして旧世代向け周辺機器を出して延命すること自体は間違っていない。だが今回のケースではソレをやるタイミングがあまりにもまずかったのだ。なんせスーパー32Xセガサターンを並行して開発・販売をしてしまったことでお互いがお互いの邪魔をしてしまい、自社同士でパイを食い合うだけでなくユーザー層にすら混乱をもたらしてしまったのだ。コレを避けるには32Xかサターンのどちらか一方を開発せず、もう一方に注力する以外の方法はない。となれば優先されるべきは次世代機たるサターンであるハズ。もしも32Xを開発するにしてもサターンと被らない時期にリリースできていればこんなことにはならなかったのである。
(Atari Jaguarが32X誕生のきっかけという説もあり、その場合どう転んでもこの時期になるのだが…)

だがソレは当のSEGA自身とてわかっていたハズ。だったらなんでスーパー32Xセガサターンの並行開発』などというあまりにも無茶苦茶なムーヴをしてしまったのか。それは北米に目を向ければ見えてくる。まず最初にも触れたように北米におけるメガドラGenesisの市場は日本のソレと比較にならないほど大きなものであった。マイケル・ジャクソンを筆頭に大スターたちとタイアップしたゲームをリリースし、ファンからの信頼を獲得したところで投入したソニックは世界レベルの大ヒットを記録。これによってそれまで2番手止まりであったSEGAは北米市場において任天堂を下すという偉業を成し遂げたのだ。

(スーパー32X専用ソフト『カオティクス』)

だからこそ北米SEGASEGA of America(SoA)は世代交代を恐れた次世代機の投入はまだ時期尚早である、Genesisはまだ戦えると。一方で日本のSEGAセガ・エンタープライゼスメガドラ市場の限界を悟っていた良くて2番手の現在のメガドラ市場よりも、早々に次世代機への移行を進めるべきだと。…そして分裂が始まったGenesisの市場を捨てることを惜しみ、ソレを維持し続けようとしたSoAスーパー32Xを、そして次世代機への世代交代を急ぐセガ・エンタープライゼスセガサターンを開発することとなる。そう、同時期に誕生したふたつのSEGAの32bitハードの正体は、日米SEGAの分裂の象徴だったのである。

そして北米におけるスーパー32X日本以上の大惨事のトリガーとなってしまう。最初に触れたように日本でのスーパー32Xセガサターンよりも後に発売された。販売戦略として見ると32Xを売る気が微塵も感じられないスケジュールだが、そもそもセガ・エンタープライゼスが推し出していたのはサターンだったと考えると色々合点はいくだろう。一方、北米市場では32Xがサターンに先駆けて発売されていた1994年11月21日日本でサターンが発売した1日前に北米では32Xがデビューしていたのだ。ならば北米でのサターンはいつリリースされるのかというと、当初は1996年の発売予定であった。

(スーパー32X版『スターウォーズ アーケード』)

…だがしかしSoAの思惑に反して32XはヒットしなかったGenesisが覇権を握っていた北米市場でさえも。日本と同じように周辺機器を出しすぎてユーザーが疲弊していたのもそうだが、何よりも大きいのは海を越えて同時期に日本でリリースされたセガサターン、そしてそのライバルであるPlayStationの情報が届いていたためである。『わざわざ旧世代機の周辺機器を買うよりも、少し待ってでも次世代機を買った方がいい』…日米で意見が割れたSEGAとは対照的にユーザーの考えることは日米で変わらなかったのだ

32Xの不振を受けてSoAは方針を転換せざるを得なくなった。この影響からか海外にて発表されていたGenesisと32Xを一体化させた新ハードSega Neptune(セガネプチューン)』も同じように発売されることなく消えてしまった。ここまでであれば立ち回り次第でまだ助かる道もあったかもしれない。…だがSEGAはここでまた火に油を注いでしまう。

(スーパー32X専用ソフト『TEMPO』)

先ほど触れたように北米におけるサターンの発売は1996年予定だったのだが、コレを撤回し急遽1995年5月11日に発売することを宣言した。まさかの半年近い発売前倒しであるが、そんな無茶には当然しわ寄せがくる。どこにソレが来たかといえば…ゲーム屋さんであった。発売前倒しの結果、市場に行き渡るだけのサターン本体の製造ができなくなった。つまりは既に発売しているゲーム機なのにもかかわらず、お店に並べられなくなってしまったのだ。

SEGAもソレを見越してかセガサターンを特定のお店だけに出荷するようにしたのだが、ソレで選ばれなかったお店がどういう考えに至るかなどわざわざ説明する必要もないだろう。サターンの入荷を許されなかったお店はSEGAに対する怒りを露わにし、中にはサターンに限らずそれ以前のSEGA関連商品を全て撤去し、その後にリリースされたドリキャスも一切取り扱わなかったところもあったという。そしてソレに比例するかのようにセガサターンの北米市場はとても冷たいモノとなってしまった。

(スーパー32X専用ソフト『カオティクス』)

日本での32Xの失敗は良くも悪くも『そりゃそうだろ』といった感じで受け入れられ、後継機たるセガサターンへの世代交代も問題なく進めることに成功したが、北米ではこのせいでものの見事に世代交代に失敗、やがてはセガサターンの更に次世代機ドリームキャストの時代に至るまでこの時のダメージを引きずり続けることとなってしまう。結果的に32Xはこれまで培ってきた北米におけるGenesis市場をまるごと焦土と化しただけでなく、その後に繋がるハズであった北米のサターン市場までまるごと失う原因のひとつにまでなってしまったのだ。さながら二兎を追う者は一兎をも得ずを体現したような状況である。

ぶっちゃけここまで来るともうスーパー32Xの手に負える問題ではなく、どっちかといえば当時のSEGAの失策な気もするのだが、そもそものハナシ32Xとサターンの並行開発なんかしなければこうはならなかったワケで、もっといえばその先の『サターンの製造が間に合わない』原因の一端はサターンと部品が共通する32Xの存在にあった(=32Xを作った分だけサターンが作れなくなった)ので、まぁ最終的にはどう転んでも32Xに繋がってしまうのだ。

…このような経緯もあってスーパー32Xは『セガサターンの噛ませ犬』のような扱われ方をされることが多い。だが少なくとも我はそれにNOを唱えたい。…いやまぁ実際に起こった歴史だけ見ると噛ませ犬以外の何者でもないのだが、しかしそれでもスーパー32Xという周辺機器は僅かな…ほんの一瞬だけでもゲーム業界で輝いた代物でもあるのだ。

たとえその輝きが花火の如く一瞬でその先に残ったのが暗闇であったとしてもスーパー32Xは確かに存在した。先に挙げたように今でも復刻されない名作だって少なくない。ゆえにその価値は今でも完全には失われていないのだ。良くも悪くも時代の徒花SEGAによって生み出されそしてSEGAによって殺された、しかしその魂は紛れもなくSEGAだった悲劇の周辺機器スーパー32X…その存在や魅力についてこれからも語り継いでいきたいのである!!
(それはそれとしていつ本体が死ぬか心配でならないので復刻…は難しそうですか、そうですか…)

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