
コンピュータゲームとは人類が生み出した最も素晴らしい文化である。人種・性別・言語、それら全ての垣根を超え、全ての者に平等に素晴らしい体験を与えてくれる。そして、50年以上前から続くゲーム文化の歴史において、日本という国は特に大きな立ち位置にあった。今もなお世界中にその名を轟かせる天下の任天堂も、そのライバルとして北米南米を制覇したSEGAも、一部のコア層の心をガッツリ掴んだNEC-HEやSNKも、いずれも日本発の企業だったからである。
だがしかし、『ゲーム』という文化は何も日本だけのモノではない。むしろゲーム文化そのものが産声を挙げたのは海の先にある米国である。そしてゲーム業界の原点たるアメリカにおける最初期のゲームを語る上で避けては通れないメーカーこそが今宵の記事における主役、『ATARI(アタリ)』である。

この社名はゲーマーであれば一度くらいは耳にしたことがあるだろうが、この記事ではひとまず最初にATARI、そして米国における最初期のゲーム史についてかなりザックリと触れようと思う。既に知っているならば飛ばしてしまって結構。『アタリショック』という単語からその内容を察せる者ならば冒頭の解説は必要ないだろう。
ATARIとは世界初のゲーム会社、その歴史ははるか昔の1972年まで遡る。世界初の家庭用ゲーム機、マグナボックス社の『ODYSSEY(オデッセイ)』が世に放たれ、ゲームという文化がスタートしたそのとき、オデッセイから強く影響を受けた一人の技術者がいた。その男の名は『Nolan Bushnell(ノーラン・ブッシュネル)』。
彼は友人たちと共にゲーム会社『ATARI』を創業し、アーケードゲーム『PONG(ポン)』をリリース。コレが大ヒットしたことでATARIの大躍進が始まることとなる。ちなみに米国企業らしからぬネーミングなのは、そもそもの社名の由来が日本語(囲碁用語の『アタリ』)であるためである。

それからのATARIの約10年間は激動の日々であった。『HOME-PONG(ホーム・ポン)』等に続く新たな家庭用ゲーム機『Video Computer System(VCS)』…後の『Atari 2600』の発売、親会社ワーナーと旧ATARIメンバーの対立、ワーナーによる大幅な改革とそれに反発する社員の離脱、世界初のサードパーティ『Activision(アクティビジョン)』の誕生、小売の水増し発注で発生した大量の不良在庫、2600との食い合いになって失敗した後継機『Atari 5200』、広がり過ぎた2600の市場が仇となり際限なく増えてゆく(ゲームに知見がない)サードパーティと低クオリティなゲームの数々、そして…起こるべくして起こった『アタリショック』*こと『Video Game Crash』…。
*アタリショック(Video Game Crash of 1983)
1982年~1984年にかけて米国ゲーム業界で発生した事象
そこに至るまでの経緯は極めて複雑であるため、ザックリ要約すると
『ゲームを作れない会社が多数参入したことで低品質なゲームばかりになり、
ユーザーからも小売からも完全に見捨てられ市場崩壊、
サードパーティや販売店の倒産が相次ぎ最後にはハードメーカーが全て撤退した』というハナシ。
ちなみに『ビデオゲームの墓場』のせいか『E.T.』が原因かのように語られることも多いのだが、
この通りアタリショックは膨れ上がった爆弾が最後の最後に大爆発した案件であり、
『E.T.』は運悪く最後のトリガーを引いてしまっただけで直接の原因とは程遠い(と自分は考えている)。

数名の男たちの野心から始まり、やがてはATARIに参入していた数多のサードパーティはおろか、マグナボックス・フェアチャイルドといったライバルメーカーすらも巻き込み、米国のゲーム業界を纏めて焦土と化したアメリカにおける初期のゲーム史は、決して忘れてはならない負の神話として今なお語り継がれている。なおATARI創業~市場崩壊に至るまでの流れは、現状明かされている範囲ですら相当数のドラマがあり、この記事で触れているのは本当にザックリとした部分のみである。もっと深く知りたいならぜひ調べてみるがよろし。
さてさて、そんな波乱万丈な運命を辿ったATARIであるが、驚くことにこの現代においてもその名前は生き残り続けている。そして2022年、とうとうATARIは創業50周年を迎えたのだ!…まぁ厳密には現在のATARIは権利を取得した別会社*なのだが、このあたりはややこしいので本文ではスルーさせてもらう。
*元祖ATARIの末路と新生ATARI
アタリショックの後、ATARIのCS部門はアタリコープという社名になり、何度かに渡って買収。
最終的にフランスのインフォグラム社がその権利を手にすることになったのだが、
その後インフォグラムは子会社として『Atari Interactive』を創設、
取得したATARIブランドのコンテンツをリリースし、
最後には自社の名前すら『Atari SA』に改名するまでになった。
つまり、現在活動しているATARIとは元インフォグラムの『Atari SA』ということになる。

ということでいよいよここからが本番、今回のタイトルは『Atari 50: The Anniversary Celebration(アタリ50: アニバーサリーセレブレーション)』である!
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