さて、突然だが諸君は今日、7月21日が何の日かご存じであろうか?
ネタ抜きに考えてほしい、ゲーマーであれば誰しもが知っている記念日である。
え、わからない?
ならば仕方ない、教えてしんぜよう!(いつもの茶番)
今から25年前(1995年)の7月21日、ゲーム業界に革命を起こすため、とあるハードが世に生まれた!それこそがコイツである!
『Virtual Boy(バーチャルボーイ)』!!
ゲーマーであれば知らぬものはいない、良い意味でも悪い意味でも超有名なマイナーハード(矛盾)、『バーチャルボーイ』である!
『任天堂の眼鏡』『早すぎたVR』『赤い黒歴史』などとも揶揄されるこのヘンテコハードも、なんと今日で25周年!
25周年記念ということで今回はこのハードについて語っていこうと思うのである。
ゲームハードそのものについて語る記事はコレが初となるのでやや手探りかもしれないが気にしないでほしい。
まぁひとまずは『バーチャルボーイ』とは何かという根本的な部分から説明するとしよう。冒頭にも書いた通り、コイツは1995年に発売された(一応)携帯型ゲームハード、定価は15,000円。販売元はみんなご存じ任天堂、ゲーム業界の老舗中の老舗、説明不要のレジェンドである。
1995年というと一世を風靡した『スーパーファミコン』が末期に差し掛かっており、ちょうど次世代機の『ニンテンドウ64』が出るか出ないかというタイミング(ニンテンドウ64は1996年発売)。
同時期にはSCEの『PlayStation』、SEGAの『セガサターン』も既に世に出ており、ゲーム業界の新時代の幕開けと言っても過言ではなかった。
そして、こちらのバーチャルボーイもある意味で未来を感じさせる代物であった。外観からして見ての通りだいぶぶっ飛んでいる。『赤い眼鏡』と呼ばれる理由がなんとなくわかるはずだ。
一見すると現代におけるVRのような印象を受けるが、現代のVRが『頭に直接括りつける』というゴーグルのようなものなのに対し、こちらは『二脚でゲーム機を固定してそこを覗き込む』というまるで双眼鏡のようなものとなっている。
現代における一般的なVRは『トラッキング』と呼ばれる技術により頭の位置や向きを検出しているが、こちらにはそんな機能はないため、プレイ中に動いても何も変わらない…というかそもそもゲーム機自体を固定しているため、動いたらそもそも画面が見えなくなる。
プレイ中は主にこちらの画像のようにテーブルなどの上に本体を建て、それを覗き込むようにしてプレイする。どうしても自分の首の位置が固定されてしまうため、やっていると首が痛くなってくるのがネックではある。またちょうどいいサイズの机と椅子がないとプレイしづらい。
バーチャルボーイは大きく分けて本体とコントローラの二つで構成されている。
本体となるのがこの双眼鏡部分、パッと見ゲーム機には見えない。さながら宇宙船のような外観である。内部には液晶画面が二つあり、ここを覗き込んでプレイする。一応アイシェードがあるため、周囲の明るさに関係なくゲームを楽しめる。
画面の反対側にカートリッジスロットがあり、ここにゲームソフトを差し込んでプレイする。ソフトに関しては後述。
若干見づらいが本体裏面にコントローラ用のポートと通信ケーブル用のポートが用意されている…が、残念ながら通信ケーブルが必要なゲームは一切発売されなかったうえ、通信ケーブルそのものも未発売に終わったため、この部分は何一つ用途がない。海外版ではそもそもここのポート自体が存在しないらしい。
そしてコレがコントローラ、これまた中々珍妙な形をしている。
同じ任天堂のスーパーファミコンともニンテンドウ64とも似ていない。
コントローラの形自体も独特だが、特に気になるのはその左右対称なボタン配置。
なんと左右両方に十字キーが存在している。
長い長い任天堂ハードの歴史の象徴ともいえる十字キーであるが、一つのコントローラで複数の十字キーが存在するゲーム機はバーチャルボーイしか存在しない。そして右側に十字キーがある影響でABボタンが若干中央に寄っているため、他のハードのノリで操作しようとすると十字キーをうっかり押してしまいがち。ちなみに中心にあるスイッチは電源、本体側に電源スイッチはないため、バーチャルボーイはコントローラからしか起動できない。
そして勘のいい人は気付いていそうなポイントだが、コントローラ中央が妙に出っ張っている。実はこの中央部分は電池ボックス。そう、このコントローラはACアダプタの役割も兼ねているのである。動作は単三電池6本で可能、ただ電池がある分コントローラが割と重い。
別売りのアダプタを使えばコンセントからの給電も可能だが、まぁアダプタ自体も重いので体感的にはあまり変わらなかったり。電池切れを気にしなくてよくなる程度か。
画面は赤と黒の2色のみで構成されている。物凄く目に悪そうだが、実際はあまり悪影響はないらしい。ただし、やはり長時間プレイには向かないらしく、全てのソフトで共通して『オートポーズ』*と呼ばれる強制的な休憩機能が実装されている。
*オートポーズ
全てのバーチャルボーイタイトルに用意されている。
一定時間以上ゲームをプレイすると
一旦『AUTO PAUSE』と画面に表示され、
プレイを中断して休憩するように促される機能。
時間経過で即座に中断されるわけではなく、
一定時間経過後のステージクリア/ミス時などの
『中断しても問題ないタイミング』で遷移する。
左右二つの液晶画面に異なる映像を出力することで、3D立体視でゲームを遊ぶことができるのが特徴。3D立体視というと一般的に『飛び出して見える』という風なイメージがあるかもしれないが、バーチャルボーイの場合は『奥行きがあるように見える』という方が正しい。『奥に何かがあるように見えるから相対的に手前が飛び出して見える』という方が近いか。
立体視の度合いはソフトによってまちまちだが、『テレロボクサー』や『レッドアラーム』などのようにガッツリ使いこなしているタイトルは本当に立体的に見える。バーチャルボーイに触れる場合はまずこちらの2作に手を出して立体視の衝撃を経験すべきである。
なお、立体視の見やすさには個人差があるため、起動時に共通で表示されるバーチャルボーイのロゴ画面で本体上部にあるハンドル等で微調整する必要がある。
ゲーム画面が赤と黒の二色だと『諸々の表現が難しいのではないか?』と思われるが、そこは立体視を活用した工夫でカバー。まぁ『ゲームボーイの白黒の白部分が赤になった』と考えればさほど問題ないこともわかるハズ。
ここからはソフトの話、バーチャルボーイ用のソフトは所謂ROMカートリッジ。ただしスーパーファミコンやニンテンドウ64のような大きめのものではなく、やや小さめかつコンパクトな形状。サイズ的には気持ちゲームボーイよりも大きいかなという程度である。
『マリオテニス』よりも一足先にリリースされたマリオシリーズ初のテニス『マリオズテニス』、『パンチアウト』の系譜である一人称視点アクション『テレロボクサー』、宇宙を舞台にした奥行きが見どころのピンボール『ギャラクティックピンボール』、アーケード向け爆弾落ちものパズルの移植『とびだせ!ぱにボン』、そしてワイヤーフレームで描画される3Dシューティング『レッドアラーム』の5本がロンチタイトルとしてリリースされた。
スポーツ・アクション・ピンボール・パズル・シューティングと、これだけ見るとバランスの良いロンチのラインナップではあったのだが、如何せんその先が続かなかったようで、その後も定期的にソフトのリリース自体はされたものの、最終的に僅か全19本(日本国内)しかリリースされなかった。海外でのみ発売されたタイトルを含めても三桁どころか50本にすら届かない。
全ソフトがリリースされるまでの期間が半年に満たないと言えば、その少なさがわかるだろう。なんとなくわかると思うが、ソフトがたったこれだけしかリリースされなかった任天堂ハードはバーチャルボーイのみである。
曲がりなりにも1995年にリリースされた第五世代のゲーム機であるため、本体スペックはそこそこ高い…がやはり同世代の据置ハード(ニンテンドウ64・プレイステーション・セガサターンetc…)と比較すると見劣りする感は否めない。
まぁ『電池式で本体に画面が付いている』と考えるとバーチャルボーイは携帯ハードのカテゴリなのでそりゃ据置機と比較すると見劣りするのも当然なのである。上述したプレイスタイルの都合上とにかく携帯に不向きなので『携帯できない携帯機』と化しているのはそれはそれでアレだが…。
実際、携帯機のカテゴリで考えた場合、前世代の携帯機である『ゲームボーイカラー』あたりと比較して順当にスペックは上がっている。液晶の都合上2色しか表示できないためグラフィックのクオリティが一見下がったようにも思えてしまうが、実際の解像度は『ゲームボーイ』どころか次世代の『ゲームボーイアドバンス』よりも上である。
サウンドは『ゲームボーイ』とほぼ同じ(Wikipedia情報)らしいが、本体の基本スペックが上がったことにより短めなボイス程度であればクリアに聞こえるようになった。このあたりは『ギャラクティックピンボール』などをプレイするとわかりやすい。
なお、ソフト数が少なかったとはいえ、駄作ばかりだったということは全くなく、どちらかといえばハイクオリティな作品が揃っている。
上に挙げたロンチタイトルの一つである『レッドアラーム』はその代表例であり、自由に移動可能な3Dフィールドを探索しつつド派手なドッグファイトを繰り広げられる今作はまさしく『バーチャルボーイだからこそできた歴史に残すべき大傑作』といっても過言ではない代物である。
ほかにも大人気アクションシリーズ『ワリオランド』の一作である『アワゾンの秘宝』や、奥と手前の二つのエリアを行き来する見下ろし型シューティングの『バーティカルフォース』をはじめ、各ソフトメーカーの本気が窺えるソフトも多く、どのソフトを選んでも楽しむことができる。
ただ、その一方で『バーチャルボーイならではのゲーム』が多いかと言われると、そこまででもないというのがややネックである。確かにリリースされたタイトルには傑作が多いが、そのゲームが『バーチャルボーイだからこそできる作品』かというと、少し違う。
あくまで自分がプレイした範囲での話であるが、リリースされたソフトラインナップの中でバーチャルボーイの特色である立体視を余すことなく用いたと言い切れる作品は上述した『テレロボクサー』『レッドアラーム』以外だと、せいぜい3D版マリオブラザーズの『マリオクラッシュ』くらいしか思いつかない。
『バーティカルフォース』や『アワゾンの秘宝』、メガテンやペルソナでお馴染みジャックフロストのアクション『ジャックブラザーズ』などは非常にクオリティの高い作品ではあるのだが、ぶっちゃけ立体視が無くても普通に成立しているため、『バーチャルボーイならでは』かと言われるとちょっと違うと感じてしまう。
(もちろん立体視が輝くシーンはこれらの作品にもある)
他にもバーチャルボーイ版テトリスの『V-テトリス』や『とびだせ!ぱにボン』は特にその傾向が強く、基本システムどころか画面の表示までごくごく普通の2D落ちものパズルであるため、バーチャルボーイである必然性をそこまで感じないのが悲しいところ。前者はループテトリスと呼ばれるオリジナルルールでなんとか差別化を図っているものの、後者はホントにただの落ちものパズルである。
(ただし『ぱにボン』はグラフィックのクオリティが非常に高いのでそちら目当てで遊ぶのはアリ)
ただ、立体視の活用に限って話を進めた場合このような印象になるというだけなので、実際にはいずれのゲームにもしっかりした見どころは用意されている。体感だが『バーチャルボーイのゲームに大当たりはあっても大ハズレはない』という感想である。
バーチャルボーイのソフトは2020年現在未だにミニ系ハード(本体仕様的に無理)やVC(立体視の再現が無理)での復刻が一切行われておらず、今から遊ぶ場合どうしても実機の環境を一から揃える必要がある。
実機から揃えるのがやや面倒という気持ちもわからないでもないが、ゲーマーとしてこのバーチャルボーイの未来感ある経験を楽しめないのは大損とも言っていいので、ここは勇気を出してバーチャルボーイに手を出してみてほしい。
ちなみに、バーチャルボーイのソフト自体の価格はマイナーハードにしては安価であり、大体5000円くらいあれば有名どころのタイトルを一式揃えることができるほどコスパが良い。
(コレクター精神を出すと一部のプレミアソフトが洒落にならず死ぬので注意)
本体を入手するのが今の時代だと若干ハードルが高いが、そのハードルさえ乗り越えれば(当時の)近未来のゲーム感覚を余すことなく体験することができるのが魅力とも言えよう。
バーチャルボーイは任天堂ハードとしてはビックリするほど売れず(黒字にはなったらしい)、世間からもネタ扱いされることが非常に多いなんとも残念なハードではあるが、一方で立体視が魅力的だったのもまた事実。
実際、この経験を活かし、任天堂は2011年にかの名ハード『ニンテンドー3DS』を発売しているため、バーチャルボーイの存在意義は間違いなくあったのだろう。
任天堂の新時代の礎となった夢溢れる名機『バーチャルボーイ』、25周年のこの機会に手に取ってみてプレイしてみるのもいいと思うのである!