(『ソニック3Dフリッキーアイランド』)
メーカーのリソースは有限である。これはゲーム業界に限らず、現代社会における全ての会社に言えるハナシ。当然この記事を読んでいる諸君らもソレは理解しているであろう。無尽蔵にリソースを割けるメーカーなどいない。特定の作品に注力している状況では、必然的に何かしらのシリーズや作品が冷遇されているものである。
セガサターンの時代においてはこの冷遇されるポジションにいたのは、ほかでもない音速の青いハリネズミ『ソニック』であった。メガドライブ(Genesis)の時代に全米を魅了し、メガドライブで7本、ゲームギアに至ってはあの短期間で12本もリリースされたソニックだが、セガサターンの時代になるとこの勢いは大幅に減衰。なんとセガサターンではソニックがたったの3本しか発売されなかったのだ。
(『ソニック3Dブラスト』)
今も昔もSEGAの顔を勤めているソニック、当然ながらソニックを遊べるのはSEGAハードだけであり、ハードを牽引することを考えればソニックに頼るしかないことは自明であろう。ならばなぜ、SEGAは『ソニックをプッシュしない』という立ち回りをしてしまったのか?
この時代のSEGAについて率直に言うと『ソニックを継ぐ新たなSEGAの顔』を求めていたということがなんとなく推察できる。セガサターンの時代を迎えるにあたり、『メガドライブの顔』のソニックではなく、新たな『セガサターンの顔』が欲しかったのだろう。実際サターンと同時期に立ち上げられたもうひとつの32bit機…メガドラの周辺機器であるスーパー32Xでは主役こそ違えど従来の本家ソニックの流れを汲む『カオティクス』がリリースされたほか、新機軸となるアクション作品『Sonic X-treme(ソニックエクストリーム)』も予定されていた。
(『クリスマスナイツ』)
そして結局のところ、『NiGHTS』を筆頭に『サクラ大戦』『バーニングレンジャー』『ペパルーチョ』、アケ初出だが『バーチャファイター』、知名度ではダントツの『せがた三四郎』などサターンの顔に相応しい作品は確かに生まれたが、その反動としてメガドラの顔だったソニックは冬の時代を迎える羽目になってしまった。最初に挙げたようにサターンでも確かにソニックは3本リリースされた。しかしながらそのうち2本は移植、残る1本は本流とは程遠いレースゲームとなんとも寂しい結果に終わっている。一方でソニックが活躍する予定だったであろうスーパー32Xはプラットフォームそのものが低迷してしまい、期待の完全新作『Sonic X-treme』はセガサターン向けに変更…したまではいいのだが、結局しばらくして開発中止という運命を辿ることとなる。
…で、急になぜこんなハナシを始めたのか諸君らも気になるところだろう。知っているヒトがいかほどいるかもわからぬが、実は先ほど挙げたセガサターンの3本のソニックのうち、我がブログでは既に2本をガッツリ語っている。そう、3年前に語った『ソニックR』、そして一昨年語った『ソニックジャム』のことである。ここまで来たならモチロン…!残りの1つについても語らなければ不公平というもの!!というわけで今宵もゲーム語りといこう!今日の主役は『ソニック3Dフリッキーアイランド』!それから『ソニック3Dブラスト』である!!
(ホントは2023年に予定していた記事でした)
(同じカセットでも起動した本体のリージョンでタイトルが変わる。日本のメガドラの場合は北米版と同じ)
今回の記事はまさかの二本立てなのか!?とビックリした方もいれば申し訳ない。実質的に語る作品は1本だけである。何故なら『ソニック3Dブラスト』も『ソニック3Dフリッキーアイランド』もタイトルこそ違うが、その内容の80%くらいは同じゲームだからである。幸い我は両方所有しているので、それぞれの違いも交えつつ語っていくとしよう。まず大前提として3Dブラストと3Dフリッキーアイランドの関係性から述べる。『ソニック3Dブラスト』は1996年にSEGA Genesis…つまりは北米版メガドライブ向けにリリースされた作品である。この説明からうっすら理解できるように、日本での販売は行われていない。
(『ソニック3Dフリッキーアイランド』)
そして『ソニック3Dフリッキーアイランド』は1999年にセガサターンで登場。こっちは日本でも販売されている。つまり『ソニック3Dブラスト』から見て『ソニック3Dフリッキーアイランド』は後発移植あるいは完全版のポジションにあたるわけである。ただしコレは日本におけるハナシ、ソニックの本場たる海外では『3Dフリッキーアイランド』は『3Dブラスト』と同じく1996年にリリースされている。即ち海外視点だと本作は現代でいうところの『縦マルチ』というポジションである。
ちなみにちょいとややこしいハナシをすると北米における本作はGenesis版/Saturn版ともに『Sonic 3D Blast』、逆に欧州ではMegaDrive版/Saturn版ともに『Sonic 3D: Flickies' Island』というタイトルになっている。つまりは『3Dブラスト』は北米版、『3Dフリッキーアイランド』は欧州版のタイトルということになるわけだが、本記事では日本視点で語るため『3Dブラスト』はGenesis版、『3Dフリッキーアイランド』はサターン版と読み替えてしまって問題ない。
(公式だと基本的に『3Dフリッキーアイランド』だが、Genesis版が移植された際は『3Dブラスト』表記)
(『ソニック3Dブラスト』)
さっきの説明から薄ら察したかもしれないがGenesis版…『3Dブラスト』はハードの末期オブ末期にリリースされた作品でもある。1996年といえば日本どころか発売を遅らせた海外ですらセガサターンが発売済みの時期であり、いかに覇権を握った北米Genesis市場と言えどプラットフォームの終わりが近いタイミングであった。というわけで『3Dブラスト』は数多のソニックが誕生したGenesis(メガドライブ)における最後のソニックである。
ところで今の時代からしてみれば『世代交代のタイミングで両機種向けに同じゲームを出す』というこの行為自体は珍しくないのだが、実は本作が縦マルチになった経緯にはのっぴきならない理由がある…というのもスーパー32X→セガサターン向け完全新作ソニック『Sonic X-treme』の存在が絡んでいるからだ。最初に触れた通り『Sonic X-treme』はあえなく開発中止となったわけだが、プラットフォーマーたるSEGAにとっては『はいそーですか』で済ましていい事態ではない。
(『ソニック3Dブラスト』)
北米で32X起因の大惨事真っ只中にあったセガサターンには早急にソニックが…Genesisを救った音速の青いハリネズミが必要だったのだ。というわけでSEGAが頼ったのはGenesis時代からの縁があるイギリスのデベロッパー『Traveller's Tales(トラベラーズテイルズ)』、現在進行形でGenesis最後のソニック『ソニック3Dブラスト』を開発中だったここに、急遽『Sonic X-treme』が抜けた穴を埋めるべくサターン向けのソニックを作るよう指示を出したのである。
(『ソニック3Dフリッキーアイランド』)
そうしてリリースされたのが本記事の主役のひとつ『ソニック3Dフリッキーアイランド』である。8週間という超絶ハイペースで移植されたとされる本作は1996年、海外にて『セガサターン最初のソニック』として世に送り出されることとなった。…だが誕生経緯がこの通り死ぬほどゴタゴタしていたためか日本でのリリースはひたすらズレにズレこみ、本邦上陸はそれから更に3年後の1999年…既にドリームキャストが登場してからの発売となってしまった。なんならドリキャスを代表する次世代ソニック『ソニックアドベンチャー』…の更に完全版『ソニックアドベンチャー・インターナショナル』と同時発売である。
(『ソニック3Dブラスト』)
…というわけでこの『ソニック3Dブラスト』『ソニック3Dフリッキーアイランド』というゲームだが、『海外における最後のGenesisのソニック』であり『海外における最初のセガサターンのソニック』であり『日本、ひいては全世界における最後のセガサターンのソニック』という色々な意味で絶妙すぎる立ち位置にある作品である。ゲーム自体の知名度はぶっちゃけシリーズ内でも下から数えた方が早いくらいだが、背負った運命の重さでいえばシリーズでも最上位クラスである。
ここまでの説明から理解できる通り、この両者は細かい違いこそあれど基本的には同じゲームゆえ本記事では纏めて語っていく。差異がある部分については該当箇所に触れたときに説明する。逆にいえばわざわざ言及しない箇所は『3Dブラスト』『3Dフリッキーアイランド』の両方で共通しているということ。なお本記事のスクショはどちらのバージョンか非常にややこしいと思われるので、都度スクショの下にどちらのモノかしっかり記載しておく。まぁ画像のサイズでわかりそうではあるけど。
(『ソニック3Dブラスト』)
開発を手がけたのは最初にもちょこっと触れた通りTraveller's Tales(トラベラーズテイルズ)、イギリスのゲーム会社でありSEGAとの縁はメガドラ時代からある。ソニックに携わるのは本作が初であり、本作の後には同じくセガサターンの『ソニックR』の開発も担当。現代でもゲーム業界で活動中であり、昨今は『LEGO』のゲームシリーズを開発している。
本作のシナリオは初期のソニックシリーズの例に則りシンプル。ゲーム内ではゲーム起動時/開始時とエンディングでのみ語られる。3Dブラストでは一枚絵とテキスト、3Dフリッキーアイランドではムービーでの描写となるので、見ていて楽しいのは3Dフリッキーアイランド、理解しやすいのは3Dブラストといったところ。まぁ3Dブラストは言わずもがなAll英語表記なので英語スキルが要求されるケドも。
(『ソニック3Dブラスト』)
ところで3Dブラストに一切ムービーがないかと言われるとソレも違う。本作の起動時には雰囲気をよく表したオープニングムービーがどちらのバージョンにおいても流れるのだ!サターンでムービーならそう珍しくもないだろうが、Genesis…メガドライブでムービーとなると話は変わるだろう。ソレもメガCDも32Xも抜きの通常メガドライブでだぞ!?
流石に美麗さではサターンの3Dフリッキーアイランドのソレの足元に及ぶべくもないが、メガドラでこれほどのムービーを成し遂げたのは偉業と言えるだろう。3Dブラストを購入したプレイヤーはまずこのムービーに釘付けとなるわけだ。
(『ソニック3Dブラスト』)
ところで本作でまず目を引くのはゲーム中のその『視点』であろう。これまでのソニックのアクション作品はその大半が2Dのサイドビューで描かれるアクションゲームだったところ、本作は『アイソメトリックビュー』或いは『クォータービュー』と呼ばれる視点の作品である。ゲーマー以外だとあまり聞きなれない単語なので一応説明するが、『アイソメトリックビュー/クォータービュー』というのは斜め上の視点から常に見下ろし続けるもの。3Dが自由に扱えるようになった昨今では絶滅危惧種ではあるが、トップビュー/サイドビューが主流であった16bit時代なんかではその疑似的な3D表現から未来を感じさせてくれた手法である。この視点を採用した有名どころでいえば『スーパーマリオRPG』や『ザクソン』、『ランドストーカー』等が挙げられるか。
(『ソニック3Dブラスト』)
CSのソニックシリーズ的にこの視点は本作以前にゲームギアの『ソニックラビリンス』でも用いられていたのだが、そちらは本体スペックの都合からかジャンプはもちろんのこと、ダッシュ移動すらも自由にできない(一応スピンダッシュはある)迷路ゲームであった。本作ではこの3Dに描かれたフィールドを自由にソニックらしいスピード感を保ちつつ走り回れるようになっているのだ!もちろんジャンプだってできるぞ!!
そこに加えグラフィックは3DCGをプリレンダリングで落とし込んだスプライトを採用。『スーパードンキーコング』等で既に世間一般に認知されていた手法ではあるが、本作は先に挙げたように視点自体もアイソメトリックビュー、つまりは疑似的な3D視点のゲームを3DCGと全く見劣りしないグラフィックで表現している。この二つが奇跡的にマッチしたことで本作…特に3Dブラストは『16bitのゲームハードでこれほどの3Dアクションゲームを!?』とまた新たな衝撃をゲーマーたちに与えることとなった。
(『ソニック3Dブラスト』)
さてさてあらためて本作の物語は『カオスエメラルドが眠るフリッキーアイランドに住まうフリッキーたちをエッグマンが捕らえ、ロボット軍団の動力源にしてしまったのでソニックが立ち向かう』といったもの。身も蓋もないことを言ってしまうとぶっちゃけ『いつものソニック』なのだが、まぁそこはお約束ということで。実を言うと『エッグマンのメカは動物の生体エネルギーを動力源としている』という設定は『ソニック1』の頃から明かされており、(アドベンチャー後期からブースト初期にかけて消えかけてた時期もあったが…)コレは現行のCS最新作の『ソニックスーパースターズ』の時代にまで一貫している。
(エッグマン製ロボを倒すと動物が出てくるのもコレが理由)
(『ソニック3Dブラスト』)
ただメガドラ時代においてこの設定は『敵を倒した/ステージクリア時に動物を出すことで画面を華やかにする』という演出のためだけにあるフレーバー的な側面が強く、あまり重視されていなかったのも事実。本作ではこの設定にフィーチャーしたゲームシステムが特徴である。なおシナリオ面でこの設定を生かした作品だと後に『ソニックアドベンチャー』、やや変則的だが『ソニックカラーズ』が誕生している。
本作のゲームシステムは過去のソニックシリーズのソレとは大きく異なる。先に挙げた通り本作はアイソメトリックビューのアクションゲームということで、プレイヤーはソニックを操作してステージ内を探索していく。ステージ内のどこかにはエッグマンの作り出したロボットがおり、コイツらを破壊すると動力源にされていた動物…『フリッキー』たちが飛び出す。そして飛び出したフリッキーにソニックが触れると、フリッキーたちは可愛くソニックについてくるようになる。
(『ソニック3Dフリッキーアイランド』)
またそれとは別にステージ内には『ビッグリング』と呼ばれる巨大なリングがあり、フリッキーを連れている状態でビッグリングに触れると連れてきたフリッキーたちを救出することができる。その時点でステージ内にいるフリッキーたちを全員救出できたならばビッグリングは消滅、更に行動範囲が広がっていく。ビッグリングの先にはまた一定数のロボットたちがいて…という繰り返しで最終的にステージ内にいるフリッキーを全員救い出せればゴール、ACTをクリアできるという流れである。
ちなみにフリッキーにはアイテムの取得判定もあるため、一部のアイテムはフリッキーをたくさん引き連れている時しか拾えないなどの要素もある。長々とした隊列を率いている時は不思議なワクワク感があるものの、フリッキーたちにはダメージ判定もあるのが要注意。敵の攻撃やトラップがうっかりフリッキーに命中してしまうと、隊列が乱れてフリッキーが逃げ出してしまう。そういった時はすぐに逃げ出した彼らに触れて回収すること。ビッグリングに辿り着いたときに迷子に気付くケースは思い当たる限り本作で最悪なケースである。
(『ソニック3Dブラスト』)
この説明を聞いて…いやむしろ『フリッキー』という名を聞いて既に一部のSEGAマニアならば察しているだろうが、このシステムはそのものズバリ1984年にSEGAがリリースしたアーケードゲーム『フリッキー』*のソレである。つまりは本作はソニックの名を冠してこそいるものの、その内容は『フリッキー』の3Dバージョン或いは新作ともいうべき代物なのだ。フリッキーはソニックよりも先輩ながら長らくソニックシリーズのサブキャラ扱いが続いていたところ、ここに来てまさかの大抜擢である。
*フリッキー(ゲーム)
セガ開発、1984年稼働のアーケードゲーム。
主人公の青い鳥『フリッキー』を操作して、
ステージ内のあちこちにいるヒヨコ『ピヨピヨ』を回収、
敵キャラのネコ『ニャンニャン』に襲われないようにゴールまで誘導していく。
ソニックシリーズに登場する同名の鳥のデビュー作でもあり、
それもあってか『ソニックメガコレクション』などにセット収録されたこともある。
近年では『龍が如く7外伝』にてSG-1000版が収録された。
(『ソニック3Dブラスト』)
一方でシステムこそ3D版『フリッキー』ながら、やはり本作はソニックシリーズ。ソニックシリーズならではの仕掛けの数々に、特有のスピード感は本作でも相変わらず堪能できる。ハイスピードに走り回ることもできるしバリアなどのアイテムも登場。ステージ内には多数のリングが配置されていて『リングが1枚でもあれば死なない』『被弾時にはリングがまき散らされ回収も可能』といったソニックシリーズの遊びやすい要素は本作でもアリ。アクション面でもジャンプのほかスピンダッシュが可能、壁にヒビが入っているところならば破壊できたりもする。
アイテムとして登場するバリアは『ソニック3&K』と同じように3種類。最低限の機能を持つ通常のバリアのほか、炎属性の攻撃を完全に無効化できるフレイムバリア、それからちょいと特殊なゴールドバリアというものがある。ゴールドバリアを装備している状態でジャンプ中にボタンを押すと専用技『ブラストアタック』が発動可能。コレは非常に近い敵を追尾して攻撃できるというもので、ソニックアドベンチャー以降の作品で登場する『ホーミングアタック』のプロトタイプともいえるアクションである。
(『ソニック3Dブラスト』)
各種ステージはソニックシリーズらしくZONEで分けられている。本作のZONEは3つのACTからなる。ただしACT3はボス戦のみの内容なので構成としてはクラシック時代のソレというよりも後の『ソニックアドバンス2』が近いか。本作は全部で7つのZONE+ラスボスという構成で各ZONEごとにロケーションも大きく切り替わる。草原・遺跡・火山などなどバリエーション豊かなエリアとそれに因んだギミックの数々がソニックを待ち構えている。ギミックもステージごとに異なるものが用意されており、シリーズおなじみのループ構造やスプリングなんかも最初っから登場してくれる。
ステージ自体の広さはなかなかのものながら、ソニック自体がハイスピードに動き回れるためストレスは感じづらく、また段階的に探索範囲が広がるという都合上迷子になりづらいのもうれしいポイント。
(『ソニック3Dフリッキーアイランド』)
ソニックシリーズ特有のやりこみ要素としては『カオスエメラルド』集めが用意されている。本作のカオスエメラルドは全部で7つ、例によって例のごとく入手にはスペシャルステージをクリアする必要がある。ステージ内のどこかにはソニックの仲間キャラであるテイルスとナックルズがおり、彼らに触れるとその時に所有しているリングを全て渡すことができる。渡したリングが合計50枚を超えると一度だけスペシャルステージに挑戦可能。本作のスペシャルステージは全部で14種類、ナックルズ経由で突入できるものと、テイルス経由で突入できるものとで背景や配置が異なるという面白い試みもある。
(『ソニック3Dブラスト』)
スペシャルステージの内容は3Dブラストと3Dフリッキーアイランドでまるっきり別物。3Dブラストにおけるスペシャルステージでは左右移動とジャンプのみ可能で、自動で奥へ奥へと進んでいくソニックを操作してトラップを避けながらリングを回収していく。最終的に一定以上のリングを回収できればカオスエメラルドが入手できるという流れ。一方で3Dフリッキーアイランドのスペシャルステージはリングを一定以上集めるという箇所こそ共通ながら、舞台はチューブ構造という『ソニック2』のスペシャルステージをブラッシュアップさせたような内容になっている。
(『ソニック3Dフリッキーアイランド』)
個人的にはスペシャルステージ自体の難易度はサターン版の方が高めに感じるほか、3Dブラストだとクラシック時代のソニックシリーズと同じように同一ステージ内で複数のエメラルドを入手可能だったところ、3Dフリッキーアイランドでは各ACTごとに入手できるエメラルドは1つまでという制限がかけられているため、全体的にエメラルド集めはサターン版の方が難しい。
本作のカオスエメラルドは集めたところでスーパーソニックに変身できるなどの特典はなく、シンプルにED分岐に関わるのみ。ただし『ソニック3&K』と同様にエメラルド全回収時にしか挑めないステージ(というかラスボス戦)があるので、できることならば集めておきたい。3Dブラストであれば全回収のハードルはそこまで高くないのが幸いか。
(『ソニック3Dブラスト』)
ゲーム内で流れるBGM群はソニックシリーズではおなじみながらハイクオリティなモノが揃っている。『ソニック3&K』と同様に全ZONEの各ACTごとに専用のBGMが用意されているほか、驚くことに3Dブラストと3Dフリッキーアイランドとで全ての楽曲が別物になっている。そのため本作はゲーム的には1つの作品でありながら、BGMでは2つの味わいがあるといえる。
作曲者は3Dブラストと3Dフリッキーアイランドでそれぞれ別のスタッフ。『ソニック3』でシリーズに初参加し、後に『ソニックアドベンチャー』系列の作品をはじめ数々のシリーズ作の楽曲を手がけることになる瀬上純氏を中心としたメンバーが3Dブラストを、後に『ソニックR』や『ソニッククロニクル』の楽曲を手がけるRichard Jacques(リチャード・ジャックス)氏が単独で3Dフリッキーアイランドを担当している。
(『ソニック3Dフリッキーアイランド』)
作曲者が違うこともあってやや方向性こそ異なるものの、どちらも本作にピッタリあったもの揃いで素晴らしい。それぞれのBGMの特徴を挙げると、3Dブラストの楽曲はクラシック時代の延長といった表現が似合うメロディアスなモノが多め。3Dフリッキーアイランドの楽曲はほぼ全て『You're My Hero』のフレーズを盛り込んでおり統一感がある…といったところ。
『You're My Hero』というのは3Dフリッキーアイランド用に用意された主題歌で、シリーズ作の中でもかなり初期のボーカル曲でもある。歌唱はDebbie Morris(デビー・モリス)氏。ソニックシリーズでは非常に珍しいバラード調で真ENDで流れることもあって『やり遂げた』感をひしひしと感じることができる。原曲自体はバラード調でこそあるものの、そのフレーズを用いたBGMたちはシリアスなものからスピーディなものまで多彩なアレンジがされているため必聴である。
(『ソニック3Dフリッキーアイランド』)
瀬上純氏もRichard Jacques氏も共に本作の楽曲群に思い入れがあるのか、3Dブラストの『Green Grove Zone Act1』『Panic Puppet Zone Act1』がソニックアドベンチャーの『The Air(ウィンディバレー)』『Twinkle Cart(トゥインクルパーク)』にて、3Dフリッキーアイランドの『Diamond Dust Zone Act1』『Volcano Valley Zone Act1』『Panic Puppet Zone Act2』がソニッククロニクルの『ブルーリッジゾーン』『クロンコロニー』『メトロポリス』にてアレンジされるなど、それぞれのスタッフが携わる作品にて本作に纏わる楽曲が流れる機会がある。
(というかクロニクルは3Dブラスト/3Dフリッキーアイランド共にアレンジ曲がやたら多い)
ここだけのハナシ、ソニック4EP1の『Boss : Dr.Eggman』も元を辿れば3Dブラストの没曲である。主題歌の『You're My Hero』についても『ソニックジェネレーションズ』にてまさかのアレンジが行われているほか、『ソニックカラーズアルティメット』の限定版の特典サントラに収録されたりなどちょくちょく拾われたりしている。それもあって本作はゲーム自体の知名度に反し、BGM自体は聞いたことがある人は多いはず。
(『ソニック3Dフリッキーアイランド』)
ソニックシリーズ初期作品の例に漏れず本作もまたサントラのリリースは行われていないものの、3Dフリッキーアイランドに関してはサウンドがCD-DA形式であったため、『ソニックR』などと同じようにゲームディスクを音楽再生メディア等に入れることでサントラとしても機能するのが嬉しいところ。3Dブラストについてもゲーム内でサウンドテストが可能のほか、近年リリースされた『ソニックオリジンズ(プラス)』にてDLC扱いで本作のBGMを聞けるなど少々不便ながらBGMを堪能できる環境はそこそこ用意されている。
(『ソニック3Dフリッキーアイランド』)
ここからはひっじょーに細かい点も含めた3Dブラストと3Dフリッキーアイランドの違いについて紹介していこう。セガサターンの方が高性能ハードということもあり、基本的には3Dフリッキーアイランドの方が豪華版ともいうべき内容なのは間違いない。グラフィックの質感は3Dブラストのソレを踏襲しつつもよりグレードアップ、そこに加え画面全体に影響する天候エフェクトが多数追加されている。それ以外にも背景の小物が増えたり、SEが追加されたりなどゲームシステムそのものに影響がない範囲で要素の追加が行われている。
(『ソニック3Dフリッキーアイランド』)
システム的に影響がありそうな箇所でいうと、専用のポーズ画面が追加。ポーズ画面では3Dブラストにはなかったステージマップが表示されているため、更に迷いにくくなったのはうれしいところ。マップといえば各種ステージの開始時に毎回全体マップが表示されるようにもなった。とはいえ全体マップ上を動き回ることなどはできないため、ポジション的にはゲームギア版ソニック1のソレと同じくフレーバー的な意味合いでしかない。
タイトル画面から入れるメニュー画面ではHELPという項目が追加され、各種アイテムの説明が読めるようにもなった。しかしながらその一方でCONTROLの項目が消滅、キーコンができなくなってしまったのは残念な点。まぁキーコンするほど複雑な操作はないのだけれど。
(『ソニック3Dフリッキーアイランド』)
ところで本作の不満点をひとつ挙げるとするならば『セーブ機能という概念そのものが存在しない』点に尽きる。コレは3Dブラストの方であればそこまで問題視されていないと思われるが、3Dフリッキーアイランドの方だとハナシは変わる。なんせ3Dフリッキーアイランドはセガサターンのゲームなのだ。本家ソニックシリーズでもセーブ機能が導入されたのは『ソニックCD』と『ソニック3&K』くらいなものではあったが、折角本体側にセーブ機能があるのにコレというのは勿体ないというほかない。
一応、先に挙げたようなゴタゴタの開発経緯が頭に入っているのならば『(開発期間的に)そもそもセーブ機能を入れる余裕なぞなかった』という事情を容易に察することができるものの、ユーザーからしてみればそんなことは知ったことではなく、そもそも3年遅れ…ドリームキャストすら出ているサターン末期にリリースされた日本版ですらセーブ機能がないほぼベタ移植なのはどうなんじゃいという突っ込みには何も反論できないだろう。
(しかも同時期に海外オンリーで出ていたサターン版ベースのPC版にはセーブ機能があったらしい)
コレもあってか本作をプレイする際は3Dブラスト/3Dフリッキーアイランドの双方において『ソニック1』『ソニック2』と同じような『通しプレイで最初から全ステージクリア+ほぼノーミスでカオスエメラルド回収も行う』という超ストイックなプレイスタイルを余儀なくされる。『ソニックCD』や『ソニック3&K』のようにセーブ機能を駆使してやり直しつつ、同時に少しずつ真ENDも目指すという遊び方ができないのは実に痛いというほかない。
一応公式もコレについては思うところもあったのか、日本版の3Dフリッキーアイランドの説明書には目次の時点でわざわざ『※このゲームにはデータのセーブなどを行うバックアップ機能はありません。(原文ママ)』という注意書きがなされており、更にいえば説明書とともに『ゾーンセレクトの裏技コマンドが掲載されたペラ紙』までソフトに同封されるという開き直った対応が行われている。ソニックシリーズ…特にメガドラ時代において隠しコマンド等の裏技を使いゾーンセレクト(アクトセレクト)が行えるのは半ばお約束のようになっていたものの、公式が最初からここまでハッキリとアクトセレクトの存在をオープンにした例は前代未聞である。
(『ソニック3Dフリッキーアイランド』)
なおゾーンセレクトのペラ紙が同封されているのは日本版の3Dフリッキーアイランドのみ…というかこの裏技が実装されているのはまさかの日本版だけである。コレが数少ない日本版における他バージョンと比較した際の追加要素といえる。…とはいえゾーンセレクトで選択可能なのはZONE7までだし、カオスエメラルドは収集していない扱いになるため、ある程度後半のステージから開始してしまうと真ラスボスと戦えないバッドエンド行き確定なのはなんともいえないところ。というかもっといえば日本版/海外版共通でもっと取り回しのいいチートコマンドが実装されているので、そちらを知っているのであればゾーンセレクトは無用の長物と化すワケだが。
ちなみに日本版3Dフリッキーアイランドほど表立って公開はされていないものの、ゾーンセレクト…というかアクトセレクトの裏技は3Dブラストの方にも用意されている。やり方については本記事のラストにて紹介するが、こちらの方は各アクトごとに選択可能なだけでなく、スペシャルステージやエメラルド全回収時の真ラスボス戦も選択できるため結構便利である。
(『ソニック3Dブラスト』のクラッシュ時に表示される画面)
…余談をひとつすると3Dブラストのアクトセレクトは隠しコマンドの入力以外に2つの突入方法がある。ひとつは『ゲームを1周クリアする』という至極シンプルなものながら、もう一つが非常に特徴的。その方法はなんと『ゲーム自体のクラッシュ』、ゲーム中にカセットの接触不良を起こしたり、チートなどを使ってなんらかの重大なバグを引き起こしてゲームそのものを停止させることで『YOU HAVE FOUND THE SECRET LEVEL SELECT SCREEN(訳:隠しレベルセレクトを見つけました)』という表示が出てアクトセレクトに飛ぶのだ。
コレはエラーチェック処理に引っかかった時にここへ入るようスタッフがこっそり仕込んだものである。わざわざ『CONGRATULATIONS』なんて書かれてることもあり、本来意図しない挙動であるにも関わらずついつい嬉しくなってしまう。実はこないだのスーパー32Xを語る記事の際に久々に引っ張り出して本作を差し込んだところ、運よく(?)この画面を見られたのである。
(ちょい違うがエラー時のこういった対応は後の『ソニバンス』シリーズでも行われている)
(『ソニック3Dブラスト』)
ところで最初に触れた通り本作は日本だとセガサターン版…『ソニック3Dフリッキーアイランド』のみリリースされている。この説明だけだと日本で本作をプレイしたい場合は3Dフリッキーアイランド一択のように感じられるが意外なことにそれは違う。実をいえば本作のGenesis版…『ソニック3Dブラスト』は日本未発売でありながら、日本向けに幾度となく移植が行われているのだ。
古くはゲームキューブの『ソニックメガコレクション』、そのアプデ版であるPS2/Xboxの『ソニックメガコレクションプラス』からWiiのバーチャルコンソール、Steamの単品販売、直近では北米版メガドラミニ2こと『SEGA Genesis Mini 2』までプレイ可能な環境は非常に幅広い。日本で本作をプレイしたことがあるというソニックファンもその大半はこれらの移植版でのプレイであることだろう。
(『ソニック3Dフリッキーアイランド』)
一方で『ソニック3Dフリッキーアイランド』はセガサターン末期ゆえにそこまで流通しておらず、それに加え『3Dフリッキーアイランド』ベースの移植はサターン版リリース直後に海外限定でPC向けに一度だけ出たっきりである。そのため本作は日本向けに出たバージョンよりも海外限定のバージョンの方が多数出回っており、プレイ環境も容易に構築できるという非常に変則的な状況にある。
とはいえ散々触れてきたようにゲーム部分については3Dブラストも3Dフリッキーアイランドもまるっきり同じであり、シナリオ面についても『いつものソニック』なのでテキストが読めず困ることは全くない。なので現代で本作をプレイしたいと思ったのであれば迷わず『ソニック3Dブラスト』の方に突撃していいだろう。『ソニック3Dフリッキーアイランド』の方は更にディープにソニックの歴史に触れたいという人だけがプレイすればいい。
(『ソニック3Dブラスト』)
さてさて、アイソメトリックビューにおける3D表現とグラフィック面の良質さは目を見張るものがあり、フリッキーのシステムをそのまま継承しつつソニックの良さをもミックスしたゲーム内容はシリーズでもオンリーワンの内容ゆえに、いつものソニックとは一味違う面白さを感じることができる。そのクオリティは少なくとも『メガドライブ最後のソニック』としても『セガサターン最初のソニック』としても納得がいくものに仕上がっている。
今も昔もソニックシリーズは続いており、昔ながらのクラシック路線を引き継いだ2D作品や革命を求める新機軸の3D作品まで多彩な作品がリリースされているものの、本作の面白さはそれらでは味わえない本作独自のものなので、それらを遊びつくした人でも楽しめるハズ。少々わかりづらいものの昨今でもプレイ環境の構築はそれなりにやりやすい部類なので、ソニックシリーズの歴史を学ぶうえでも一度は手を出してみてほしいのである!!
『ソニックメガコレクションプラス(PS2版)』のAmazonページ
『ソニックメガコレクションプラス(Xbox版)』のAmazonページ
(『ソニック3Dフリッキーアイランド』)
オマケ(隠しコマンド紹介)
ソニック3Dブラスト
レベルセレクト+ステージスキップ
タイトル画面で『B,A,→,A,C,↑,↓,A』と入力する。
通常ではSTARTボタンを押さない限りタイトル画面から遷移しないのだが、コマンド入力に成功すると最後のAを押したタイミングでメニュー画面に入る。その後STARTを選択すればレベルセレクト画面に入れる。この画面では真ラスボスを含めた各種ACTとスペシャルステージを任意で選択可能。
記事内で触れた通り隠しコマンドを入力しなくてもゲームを1周クリアするか、或いはゲーム自体をクラッシュさせればこの画面に入れる。ただし前者は普通に骨が折れるし、後者は色々と危なっかしいのでコマンド入力する方がはるかに無難である。
レベルセレクト機能でゲームを開始した場合は、ポーズ中にAボタンを押すだけで現在のステージをまるごとスキップすることもできる。
(『ソニック3Dブラスト』)
ソニック3Dフリッキーアイランド
レベルセレクト
タイトル画面で『↓,↓,↓』と入力したのち、ABCXYZのいずれかのボタンを押す。
記事内でも触れた通り日本版限定の隠しコマンド。ABCXYZのどれを入力したかによって開始ZONEが変化する。最後のボタン入力の時にリング音が鳴れば成功。スタートボタンでメニュー画面に入ってSTARTを押せばOK。ボタンとZONEの対応表は下記参照、見ての通りZONE1とZONE8には非対応でZONE8についてはあくまで自力で見ろとのことなのだろう。ちなみにレベルセレクト画面に該当するものは3Dフリッキーアイランドには存在しない。
A…RUSTY RUIN ZONE
B…SPRING STADIUM ZONE
C…DIAMOND DUST ZONE
X…VOLCANO VALLEY ZONE
Y…GENE GADGET ZONE
Z…PANIC PUPPET ZONE
(『ソニック3Dフリッキーアイランド』)
チートモード
タイトル画面で『↑,→,A,C』と入力する。
リージョンごとにコマンドの内容が異なるが、ひとまずここでは日本版のモノを紹介。最後にCを入力したタイミングでリング音が鳴れば成功。ゲーム的には一見変わりはないものの、ポーズ中にABCXYZのいずれかのボタンを押せば様々な効果を得ることができる。ぶっちゃけコレを知っているならば↑のレベルセレクトは不要だったり。ボタンごとの効果は以下の通り。
A…現在のACTをクリア
B…次のZONEへスキップ
C…表ラスボス戦(ZONE7のACT3)へスキップ
X…1UP
Y…ソニックメダル増加(10枚でコンティニュー追加)
Z…カオスエメラルド全入手
いつでもこれらの操作は可能なので非常に取り回しがいい。ちょいとややこしい点に触れると『次のZONEへスキップ』は文字通りZONEをひとつスキップする。例えばZONE2のACT2で使用すればZONE3のACT2へ飛ぶ…といった具合。
またZONE7のACT3で『現在のACTをクリア』を使用すると、エメラルドを回収していない場合即座にバッドエンド行きなので注意。真ラスボス戦に行きたい場合は『カオスエメラルド全入手』→『表ラスボス戦までスキップ』→『現在のACTをクリア』という順に実行すればいい。
(『ソニック3Dフリッキーアイランド』)