『スペースハリアー』、それは体感ゲーム界のレジェンドである。本作はSEGAの、シューティングの、アーケードの、そのいずれの歴史においてもその名を残す超・名作であり、ゲーム性からサウンドまで色々と語るべきポイントの多い作品であるのだが、個人的にスぺハリの名を聞くとやはり『移植』のハナシをしたくなる。
というわけでやや唐突だが今宵語るはスペースハリアーの移植!より具体的には『PCエンジン版』の『スペースハリアー』である!!我がブログ初のPCエンジン回にして、メガドラミニ2版のスぺハリ回以来、約半年ぶりのスぺハリ記事であーる!!
本作はアーケードの体感型3Dシューティング『スペースハリアー』をPCエンジン向けに移植したものである。AC版から3年後の1988年発売。大量に存在した国内のCS機向けスぺハリではセガ・マークIII/マスターシステム(SMS)版に続く2番手、しかしながら初期のCSスぺハリとは思えないほど高いクオリティの移植であることが特徴。移植を手掛けているのはX68000向けのAC移植作品でおなじみの電波新聞社で、販売はNECアベニューが担当。
『PCエンジンのスペースハリアー』…ある程度ゲームに纏わる知識を身に着けている人であれば、当然こういう疑問を抱くことであろう。『何故SEGAを代表する名作STGが、SEGAハードであるSMSが現役の時代であるにも拘らず、競合他社であるNEC-HEのPCエンジンでリリースされたのか?』と。
『マリオ』が遊べるのは『任天堂のゲーム機』だけ、『ラチェクラ』が遊べるのは『SIEのゲーム機』だけ、『HALO』が遊べるのは『Microsoftのゲーム機』だけ…自社でハードを賄うファーストパーティのタイトルは、そのメーカー自身のプラットフォームでしかプレイできない。コレはゲーマーであれば知らぬはずがないゲーム業界の一般常識である。
これらの例はハードメーカーの収益構造にも密接につながっており、いつの時代でも誰一人として疑問を抱くことはない暗黙の了解(このワードはちょっと使い方違うかもだが)である。もしもコレに対し対案も出さないまま疑問の声を挙げようとするものなら、表情や声に出さずとも内心『コイツ何もわかってねぇな…』などと思われることは避けられない。
…しかしながら、SEGAは自社ハードであるSMSが現役の時代に自社が抱えていた数々の名作ACタイトル群の移植許可を出していた。本記事の主役であるPCエンジンはもちろん、後年にも最大のライバルとして度々揶揄される任天堂のファミリーコンピュータにすらだ。スぺハリ以外にもアフターバーナーIIにアウトラン、エイリアンシンドロームまで…。流石に他社ハード移植での販売/開発をSEGAが担うようなことはしなかったが、その中には『ファミコン版ファンタジーゾーン(サンソフト開発)』をはじめ当の本家SEGAハード版よりもクオリティが高いとされる移植もあり、悪い言い方をしてしまうとこれは『敵に塩を送る』行為にほかならなかった。
であれば、なぜSEGAはそんな思い切ったムーブを決めてしまったのか。…申し訳ないが、コレについてハッキリした理由は我にはわからなかった。他社ハードに出たSEGAゲーのラインナップ(ACオリジナルのもののみ)やセガサターン以降の時代でこういったことがなくなった点など、数々の要素を繋ぎ合わせて色々と予想できなくはないのだが、結局のところ推測の域を出ないため下手なことは書かないことにする。当時を生きた人間であれば何かがわかったのかもしれぬ…。
まぁ閑話休題、本題であるPCエンジン版のスぺハリをここからガッツリ語っていくとしよう。なおスぺハリ自体は過去記事で何度も語ってきたタイトルなので、大元のシステム説明はかなりサックリ纏めさせていただく。スペースハリアーとは『高速自動スクロールの中、障害物を避けつつ、巨大な敵を撃ち落としていく擬似3Dシューティング』である。1985年に颯爽登場し伝説を築いたこのアーケード版スぺハリをPCエンジンというCSの世界に移植した作品が今回のゲーム!
PCエンジンのソフトは最終的に様々な規格が登場したが、本作はどの本体でもデフォルトで使用できるHuCARD(SMSのマイカードやMSXのBEE CARDみたいなカード型ROM)でのリリース。つまりPCエンジンであればどれでも動作可能である。
ひとつ前のCS移植であるSMS版はハードスペックの都合で再現が難しかった箇所をプログラマの工夫で切り抜け、それでもどうにもならない部分は泣く泣くカット、その埋め合わせにオリジナル要素も入れる…といった方向性の移植であったが、このPCエンジン版は一転してオリジナル要素を極力減らし、AC版の忠実再現を目指そうとしたであろう内容になっている。
そのためSMS版にて追加されたストーリーデモや最終ボスHAYA-OHといったものはPCエンジン版には影も形も存在しない。CS移植で近い世代のファミコン版やゲームギア版がSMS版がベースの移植であったことを考えると、PCエンジン版はこの世代のCSスぺハリで最もACに近い移植だったといえるだろう。
(なお厳密にベースになっているのはAC版ではなく同社移植のX68k版らしい?)
このPCエンジン版における最大の特徴はAC版にも負けないそのスピード感である。敵や背景のグラフィックに目を向けると流石にACよりややチープになってしまっているとはいえ、この時代のCSハードで60fpsのスぺハリが遊べたというのは素晴らしいというほかない。
ゲームに使うボタンは元からレバーと1ボタンだけで完結するゲームゆえ説明は不要。高いフレームレートも相まってその操作性は最高の一言。初期のCSスぺハリで常時付き纏った入力の重さなども感じられず、軽快にハリアーを操作する事ができる。数少ないアーケードとの違いを指摘すると、『ボーナスでのユーライアの動きが硬い』という点。このためちょこっとだけACと違うコツが要求される。
カットされたボス・面などは存在しない全18面構成、もちろんスぺハリの見どころと言える高速ステージやボーナスステージも登場し、AC版とそう変わらないハイスピードっぷりを体感できる。
タイトル画面にあるのはSTARTとMODEの2項目、MODEは初期状態だと移動入力のノーマル/リバース切替のみというかなり簡素なつくり。ただしとある条件(後述)を満たすことで『RANK(難易度)』と『HARRIER(初期残機)』を変更でき、かつサウンドテストへも入れるようになる。なお当時のCSスぺハリでちょくちょく出てきた7437481の裏ワザはPCエンジン版にはない。
*『7437481』
初期のCSスぺハリの裏ワザで度々出てくる数列。
SMS版/FC版/スぺハリ3Dにて登場。
これらの作品はサウンドテスト画面の曲名に番号が振られており、
この数列の順番通りに曲を再生することで何かしらが起こる…というもの。
なおこの数列そのものの意味(語呂合わせや年号等)はぶっちゃけ不明。
初期残機はデフォ設定で3、裏ワザを使用しても5が最大で5,000,000点突破時に一度だけエクステンド。コンティニューはその場での再開ではなく、最後に到達したボーナスステージ(5面/12面)後からの再開という後のセガサターン版と同じ仕様。…だがデフォルトでは使用不可で、コンティニューのためにはとある手順を踏む必要がある。またコンティニューも難易度変更もともにネームエントリーまで辿り着かなければ行えないため、CSスぺハリの中ではかなり玄人向けかつ高難易度なシステムになっている。
ネームエントリーが出てきたので折角だからものすっごく細かい部分について語るが、『他機種版に比べてデフォのハイスコアが異常に高い』という点もこのPCエンジン版の特徴。参考までにAC版・SMS版・FC版などでのデフォの最高スコア(1位)は1,000,000点なのだが、なんとPCエンジン版ではランキング最下位(7位)の時点で4,000,000点、1位ともなれば驚異の10,000,000点である。
いつものスぺハリであれば1面さえ突破できればハイスコア更新が可能なものの、本作では3面あたりを越えなければハイスコアどころかネームエントリーすら許されない。『だからどうした』と思うかもしれないが、困ったことにこのPCエンジン版には『ネームエントリーで特定の名前を入力する』ことで有効になる裏ワザがあるのだ。
基本的にAC版に忠実な移植ながら、数少ないオリジナルの方向へ進んでいるのがエンディング周りの演出。ラスボスであるVALDAを撃破すると迎えに来たユーライアと共に飛んでいきTHE END…まではAC版と同様なのだが、そこから先が大きく違う。
THE ENDの後、ここで本作唯一のSMS版要素といっていいエピローグが流れ、キャラ紹介→スタッフロールと進んでいく。ちなみにエピローグはSMS版と同一の内容だが、後半部分(スぺハリサーガが云々の箇所)のみバッサリ削られてしまっているので微妙に中途半端だったり。注目するべきはキャラ紹介とスタッフロールの方で、この2つはベースとされているX68000版からの要素なのだが、演出やBGMがPCエンジン用に新たに作り直されているのが特徴。
キャラ紹介の映像では18面に登場したボス勢を除く全ての敵キャラクターが名前と共に順番に登場、どうしてもスぺハリは18面に出てこないメンツの名前が覚えにくい部分があるので、これらのキャラに日が当たるのは素晴らしい。忘れられがちなコマイヌもモチロンいるぞ!中には群体で出てくるボスでオクトパスは単体でも『オクトパス』なのにローリーズは単体だと『ローリー』だったり地味な発見もあったり…。
続くスタッフロールではただただ走るハリアーの姿をバックにスタッフクレジットが流れていく。絵面そのものは極めて地味ながら、ハリアーを囲う柱たちが別のステージのモノに少しずつ切り替わるため、ハリアーがどこまでも走っていけることを感じさせるなんとも趣のある演出になっている。超能力戦士ハリアーはいつまでも走り続けるのだ。
キャラ紹介とスタッフロールは共にBGMが同じながら、この曲はPCエンジン版の完全オリジナル曲。静かながら優しさのあるメインテーマのアレンジはファンであれば一度は聞いてみて欲しい。…惜しむらくは何故かこの曲はサウンドテストで再生できない点。演出・BGMも含め、これらは後年の移植版に拾われることもなかったため、ぶっちゃけこのラスト周りの演出だけを目当てにPCエンジン版をプレイするのも悪くないだろう。
(キャラ紹介だけは3DS版とSwitch版が拾ってくれたと言えないでもない)
ところで本作は数年前まで数あるスぺハリ移植でもプレイするまでのハードルが高い部類にあった。理由はとにかく移植されないから。スぺハリ移植は言わずもがな凄まじい回数で行われているが、『PCエンジン版スぺハリ』の移植となると冗談抜きで皆無だったのだ。今は亡きWii/WiiU/3DSのバーチャルコンソールにも、PS3/PS VitaのPCエンジンアーカイブスにも、現行最大手のレトロゲー配信サイトのプロジェクトEGGにさえ本作の姿はない。CS移植のスぺハリを複数収録したPS2の『SEGA AGES 2500』からも収録をハブられてしまい、本当にもう超・長期間に渡り実機ソフト以外でのプレイができなかったのだ。
(なおコレはファミコン版にも同じことがいえる)
だがしかし、今から約3年前にPCエンジンの復刻ハード『PCエンジンmini』&『TurboGrafx-16 mini』&『PC Engine CoreGrafx mini』がリリースされたことで状況は大きく改善された。そう、このPCエンジン版スぺハリが50本以上の収録ラインナップの中に含まれていたのである。流石に元のクオリティが極めて高かったが故か、ファンタジーゾーンのようにnearArcade版が用意されることは叶わなかったが、それでも充分すぎる待遇である。
よって、今からPCエンジン版スぺハリをプレイしたいという方にはPCエンジンminiをオススメしたい。こちらであれば完全移植なだけでなく、(ほかの収録タイトルも同様だが)4つのステートセーブも残せる。…厳密にはPCエンジンminiに収録されているのはPCエンジン版ではなくその海外版のTurboGrafx-16(TG16)版なのだが、まぁほぼ…というかまるっきり日本版と同じ内容なので問題なかろう。ちなみにPCエンジンminiであればどのバージョンでも収録されている。
…この時代、CSのスペースハリアーは数々のメーカーの手により移植されていた。当然ながらCS機のスペックはACに遠く及ばず、それゆえ完全移植なぞ夢のまた夢…。そんな状況で開発された移植だったからこそ、この時代の移植はそのメーカーが最も大切にしている『スぺハリらしさ』というモノが現れているのだと自分は考えている。
SMS版がスぺハリのダイナミック感を押し出していたとすれば、このPCエンジン版はスぺハリのスピード感を押し出したものという見方もできる。過去の記事で何度も触れたが、スぺハリは低スぺック機への移植にこそ華があり、移植の数だけ見どころや魅力があるのだ。スぺハリの完全移植がそうそう珍しくなくなった昨今だが…いやだからこそ、こうした黎明期の移植にも手を出してみて欲しいのである。そしてスぺハリ移植が持つ魅力の虜になるべし!である!!
---オマケの裏ワザ紹介コーナー---
どちらの裏ワザもネームエントリーを使用するのだが、この2つは(最低2周必要だが)両立可能。ネームエントリーを行うには最低でも4,000,000点以上のスコアが必要なので、そこはガンバレ。早ければ3面道中、遅くとも3面クリア時には到達するハズ。どちらの裏ワザも一度実行すれば以降も有効になり、7位ランクインでネームエントリー→再度7位に入り別の名前で上書き…としても各種機能は引き続き使用可能。
隠しオプション有効化+サウンドテスト
ネームエントリー画面で『MD』と入力することで、タイトル画面のMODE内の項目に『RANK(難易度)』『HARRIER(初期残機)』『MUSIC(サウンドテスト)』が追加される。サウンドテストではエンディング曲を除く17曲を再生可能。
途中ステージからのコンティニュー
ネームエントリー画面で『CNT』と入力することで、タイトル画面に『CONTINUE』の項目が出現、以降は6面/13面からの再開ができるようになる。なお再開面を選択することはできず、前回プレイ時に6面に到達していたなら強制的に6面、13面に到達していたなら強制的に13面からスタートする。CONTINUEせずにSTARTをし、6面より前にゲームオーバーになった場合は1面からになるので注意。また、クリア後にCONTINUEを選択しても1面からのスタートになる。