7月2日、とある問題作がゲーム業界に君臨した。
それこそが『ファイナルソード 英雄の誕生』!
いやぁ、実に大変だったがなんやかんやスイッチ版を最後までクリアできたのでガッツリ語っていくのである!!
プラットフォームはNintendo Switch、開発/販売はHUP Games(エイチユーピーゲームス)が担当、自分でも聞いたことのない会社なのでちょいと調べてみたが、どうやらまだ出来て間もない会社らしい。
1890円という価格設定からもわかる通り、今作のカテゴライズはインディーゲームである。
今作自体は半年近く前にスマートフォン向けに配信されており、こちらのスイッチ版ではスマホ版から『アセットのグレードアップ』『スキル成長システムの追加』『一部サウンドの差し替え』を行った、所謂『アップグレード版』ともいえる内容となっている。スマホ版からスイッチ版で値上げが行われているのもおそらくそれが原因であろう。
公式サイト曰く今作のジャンルは『オープンワールドARPG』とのこと。
見た目が恐ろしくチープなのでそちらにばかり目が行ってしまうものの、そこにさえ目を瞑ればごくごく普通の3Dアクションゲームである。
プレイヤーは通常攻撃とスキル技、そして魔法を使い分けて敵と戦っていく。
スキル技は所謂『溜め攻撃』であるが、納刀時と抜刀時でアクションが変わったり、スキルを習得することで別のアクションになったりと地味にやれることは多い。魔法はゲーム中盤より使用可能になり、宝箱から魔法を習得することで使えるものが増えていく。魔法は全部で15種類あり、いずれも異なる効果を発揮する。
また、RPGであるため、敵を倒すことでプレイヤーはどんどん強くなっていく。今作ではステータスの差がかなり重要であるため、レベルが1つ上がるだけで目に見えて与ダメージ/被ダメージが変化する。ゲーム内では適正レベルも表示されるため、スピードクリアを目指したりしない場合は基本的に該当エリアのボスまでに適正レベルに育成しておくのがベストである。
ゲームシステム的には一言で言えば『ゼルダの伝説 BotW』のような広いフィールドで『ゼルダの伝説 時のオカリナ』のような戦闘をしながら進んでいくものとなっている。
マップはとにかく広大であり、広いフィールドマップが5つとやや小さめ(とはいえそこそこ広い)なダンジョンが4つ存在する。フィールドの変化時にはローディングが入るので厳密にはオープンワールドじゃないと思うのであるが、ぶっちゃけオープンワールド自体の定義が曖昧であり言ったもん勝ちな側面があるため仕方ない。
ゲーム内の特定地点に到達した時点である程度の範囲で自由に攻略することができる。難易度こそかなり高いがその気になればシナリオの展開を無視して本来その時点では倒せないボスを討伐することでシーケンスブレイクを起こし、無理矢理物語を進めることも可能。そのため、ストーリー進行の自由度はかなり高い。
一応、推奨レベルの低い順に攻略していけば公式が意図した進行になり、プレイヤーのレベル的にもボスの強さ的にもちょうどいい難易度になる。というかシナリオは公式の意図した進め方前提で展開され、初見でシーケンスブレイクするとシナリオがワケわからないことになる(というか、なった)ため、初回は普通に進めるのを推奨する。
フィールド内に出現する敵キャラはかなり多くの種類が存在、大体1つのエリア辺りに3~4種類前後が出現する。ダンジョンの敵は変わることはないが、フィールドマップに出てくる敵はシナリオの進行に応じて少しずつ変わっていく。このため、無理矢理シーケンスブレイクを起こしたりするとマップの敵が強力なものばかりになり、レベル上げすらままならないという状況に陥りがち。また、この影響で一部の雑魚敵はシナリオを進めると出現しなくなるため、モンスター図鑑のコンプリートを目指す場合は用心が必要である。
敵キャラとの戦闘は基本的に『回避で敵の攻撃を避け、そのスキを突いて少しずつ攻撃する』という『ゼルダの伝説 時のオカリナ』のようなシステム。一応こちらからの攻撃も不可能ではないものの、今作の敵は普通に攻撃しても高確率で回避されるか、相手側の攻撃に割り込まれて返り討ちにされてしまう。また、敵の攻撃力も非常に高いため、下手すると1ミスから即死に繋がることも少なくない。こういった点は『時のオカリナ』よりは『ダークソウル』などのソレに近い。
敵の攻撃アクションは多いモノでも2~3種類程度しかないため、慣れてくると『ウルフは距離放すと突進しかしてこないから回避合わせて回り込んで弱コンボ2セット』、『ウォームは射撃後確定でスキができるからチャージしながら射線誘導して迂回しつつ突撃後回避』といったように敵キャラごとに自分なりの攻略法を見つけられるようになる。
この攻略法の模索と1ミスから一気に追い込まれる独特な緊張感こそが今作の魅力と言っていい。逆に言えば『ただレベルを上げればクリアできる』なんてゲームでは決してないため、自己流の攻略法を見つけられる(そしてそれを楽しいと感じる)ようなヘビーなゲーマー以外にはおそらく合わない。良くも悪くもかなり人を選ぶゲームである。
ゲームの要所ではボスキャラが出現し、バリエーション豊かな戦闘が繰り広げられることとなる。ボスキャラはいずれも強敵、推奨レベルまで上げた程度では軽く一蹴されることも多い。初見ではボスの体力は3割削れたらいい方で、酷い時は1割も削れないほど理不尽に負けることもザラ。しかし、ゲームバランスが崩壊しているというわけでは決してなく、他の敵キャラと同様に『敵の行動パターンを読み、僅かなスキを突いて攻撃する』ことにより攻略が可能。ある程度以上のプレイヤースキルがあれば推奨以下のレベルでも互角以上に渡り合える。
ラスボスを含めたすべてのボスキャラには明確な弱点部位や属性が存在し、戦っていくうちにそれらを見抜くことが大切になる。逆にそれらに気付かなければ難易度は一気に跳ね上がる。
ボスキャラには多人数で一気にリンチしてくる『ゴブリンズ』やお供と共にハメてくる『アイスゴーレム』などやや問題のある敵もいないわけではないが、それらの敵も含めて何かしらの突破口が用意されていることも多い。基本的に多人数で一気に攻めてくるボスは理不尽な戦闘になりがちだが、一方で圧倒的な戦力差があるがパターンが非常にわかりやすい巨大ボス『ワイバーン』やプレイヤーの数だけ攻略法が存在する『ヘルウォーム』、プレイヤーキャラと同等の相手との死闘が繰り広げられる『デーモン』などなど、戦っていて楽しいボスもかなり多い。
ただし、戦闘回りでは若干の問題があり、時々理不尽に感じることもしばしば、上記のようなシビアな戦闘が楽しめるのはあくまで1対1での場合のみであり、例えば敵側が多数出現するパターンでは複数体に囲まれてリンチにされたり、1体の敵を倒すまでの間に2~3体の敵が新たに出現したりとかなり理不尽なことになりがち。雑魚戦なら逃走も可能だが、ボス戦ではそれすらも効かないのでツライところである。
更に一部の敵が使う凍結技を受けると一定時間動けなくなるのだが、この凍結攻撃はなんとダウン中やスキル発動中の無敵時間すら貫通して凍結状態にする。つまり凍結状態→一定時間行動不能→凍結終了と同時に凍結技→行動不能の繰り返しで一方的に殴られてゲームオーバーになることも少なくない。凍結技を使う敵が多数出現する『雪の山』近辺のエリアが今作の最難関エリアだと言われるのも納得である。
(厳密には他の状態異常技も全て無敵時間を貫通するのだが、状態異常で行動不能になるのは凍結だけなのでそちらが目立ちがち)
また、他所でも散々突っ込まれている部分だが、今作は当たり判定の作りがかなり粗い。『当たっているハズなのにヒットしない』『当たっていないはずの攻撃が命中した』『単発技なのに連続ヒットする』という不可解な現象が敵味方問わず頻繁に発生する。コレは敵味方共に当たり判定&攻撃判定がかなり狭いからだと思われる。あまりに頻発するため、もはやコレが仕様通りのような状態になっており、結果今作の戦闘では『ジャンプ切りは密着すると当たらないので気持ち右から回り込みつつ少し距離を開けて発動する』『噛みつきの当たり判定には穴があるので逆に密着して回避する』といったような今作独自の当たり判定を利用(悪用)した立ち回りが要求される。
しかし、問題のある部分の目立つ戦闘ではあるのだが、一方で前述した通りのシビアなゲーム性をはじめとして光るものはあり、好きな人にはたまらない戦闘システムではある。凍結技の無茶苦茶な仕様もある意味シビアな部分の一端を担っているという見方もできる。こういった面もやはり人を選ぶ部分であろう。
ストーリーは超がつくほど王道、RPGとしてのお約束的な場面はしっかり押さえてある。ただ翻訳の質があまり宜しくないため、心動かされるよりも前に先に笑いが来てしまうこともしばしば。『はい!?!!??』『当然んじゃろ…!』などトンデモ翻訳によって生まれた独特なセリフは妙に印象に残ってしまう。意図的かどうかはおいといて、このおかげでどこかヘンテコな世界観が形作られている。
グラフィックに関しては…見たらわかると思うがかなりチープである。
というのもゲーム中の大多数の3DモデルがUnityのアセットストアで販売されている物で占められているのが原因である。とはいえ、これ自体はあまり責めるべきポイントではない。HUPGamesは公式HPを見た感じだいぶ小規模な会社であり、自社でグラフィックを作る能力がないのであればアセットストア頼りになるのも仕方ない点だろう。
しかし、いい意味でも悪い意味でもコレがまた今作独自の味のようなものを出しているのも否定できないため、これでも別によかったような気もしないでもない。…いややっぱりチープではあるケドも。ちなみに同じようにサウンドもアセット頼りになっている。コレも自社で作曲を依頼する余裕がない場合はよくあるパターンである…が、ここにトンデモナイ地雷(後述)が仕込まれていたとはリリース前には誰も気が付かなかったようだ…。
全体的にチープな雰囲気こそあるがゲームクリアまでのボリュームはかなりあり、じっくりと腰を据えて楽しむことができる。少なくとも2000円という値段の元は取ることができる。参考までに自分のクリアまでにかかった時間は17時間33分、実時間にして27時間45分である。
さて、今作だが巷じゃ『クソゲー』*だなんだと散々揶揄されている。ただ、それについては若干物申したいと感じている。
ここまでの情報から伝わると思うが、今作はゲームとしては物凄く粗い、更に翻訳のクオリティも低く、グラフィックも(特にアセットではない部分は)かなりチープであり、昨今のCSゲームとして見れば低クオリティとしか言いようがない。
*クソゲー
世間一般で言うところの『つまらないゲーム』を指す言葉、
とはいえ人によってその定義は曖昧なうえ、
簡単にゲームを非難できる言葉であるため、可能な限り使うことは避けたい言葉である。
なお、このブログでは基本的に『クソゲー』という単語は絶対に使わないようにしているが、
今回だけは流石に例外とさせてほしい。
ゲームバランスも超ヘビーゲーマー向けに調整されているため、とてもじゃないが万人向けとは言い難く、何よりも当たり判定の粗さのせいでアクションゲームとして最も大切な爽快感があるとは言い難い。
故に今作を手放しに『名作』と評価することは絶対にできない、それどころか『凡作』にすらギリギリ入れるかどうかという微妙なレベルであろう。なんなら自分としては最悪『クソゲー』と呼ばれるカテゴリに含まれても仕方ないとまでも思っている。
しかし、世間一般から見た今作の評価はいささか過剰だと自分は感じている。それもこれも今作のアセットに『ゼルダの伝説 時のオカリナ』から盗用されたものが含まれていたためである。これ自体は何の間違いもない事実、実際『アンダス村』で流れるBGMは紛れもなく『ゼルダの子守唄』であり、7月14日現在、今作の配信は止められてしまっている。
ただし、これによって『HUPGamesが完全な悪徳ディベロッパー』というような言い方をするのは違う。むしろHUPGamesは被害者だと自分は考えている。
こればかりはゲーム開発を多少かじっている人間じゃないとわからない点かもしれないが、人が思う以上にアセットストアというのは闇が深い。無論、大多数が権利的にクリーンであるのだが、極々稀に今回のように違法なアセットが販売されていることもある。少し前にはFFのBGMの販売されてたことで騒ぎにもなっていたし。今回の騒ぎはそういったアセットを気付かずに使ってしまったことによって発生したものである。
もちろん、HUPGamesが完全に白かと言われればそれも違う。購入したアセットの中に違法なものが含まれていないかキッチリチェックしていなかったのは間違いなくHUPGames側の落ち度である。しかし、現時点でわかっている情報ではあくまでHUPGames自体は被害者という側面が強い。
しかし、一度広まった風評とはなかなか収まらぬもので、世間一般での今作の評価は『絶対的なクソゲー、歴史に残る駄作』と言わんばかりのそれである。だが、その殆どは今作をプレイしていない、動画を見ただけの層が勝手に言っているだけである。
今回の記事でも書いたように、今作には粗いなりに今作独自の魅力のようなものはしっかりあり、『何一つ楽しめないクソゲーである』なんてことは未プレイの人間が勝手に言っていることに過ぎない。実際、今作をプレイしているプレイヤーの感想ではなんやかんや今作に対して文句を言いながらも、今作ならではの楽しみ方を語っているものも多い。
今作本来の魅力は動画を見ただけでわかるような軽いものではない。20時間以上もかけて今作を最初から最後まで通しでプレイすることで初めて見えてくるものなのである。
残念ながら今作は現在配信停止となっているが、公式の発表によればBGMの差し替えを行ったうえで再配信を行うとのこと。ネットの風評に惑わされず、配信が再開されたらぜひとも今作を購入してほしいところである。
そして、今作本来の魅力が多くの人々に伝わることを祈っているのである!
---ぼやき---
今作自体のクオリティはアレではあるが、これがデビュー作と考えればだいぶ上等なものである。もしもまだHUP Gamesがゲーム開発への意欲があるのであれば、今後に期待できるものだと感じているのである。
追記:まさかまさかのPS5版が発売、そっちについてもガッツリ語ったのである。
(今作の一部のボス戦ダイジェスト動画、ネタバレ注意)