遡ること2年前、とある問題作がゲーム業界に君臨し、一瞬でゲーマーたちの話題をかっさらうという出来事があった。そう、言わずと知れた『ファイナルソード 英雄の誕生(無印)』である。
ファイナルソード…我がブログでもリリース当時にガッツリ語る記事を書いていたため、その存在を覚えている人も少なくなかろう…。え、お前の記事なんか興味ない…?…そう…。
恐ろしくチープな外観、おおよそ令和のゲームとは思えないハチャメチャな判定、どことないシュールさを醸し出す雑翻訳、そして超ヘビーゲーマー以外相手にしないと言わんばかりの難易度設計…とどこを斬っても溢れ出るそのインパクトとクセの強さから、本作はゲーム業界内外で一躍有名になることとなった。
そしてトドメに作中で使用されたBGMのアセットが盗用だったことが発覚して4日で配信停止…というまさしく伝説のゲームとして祀り上げられるに相応しい偉業(?)を成し遂げたことは多くの人々の脳裏に焼き付いている事であろう。
(一応フォローしておくが盗用アセットの件は販売していた業者の問題であり開発元は被害者寄りである)
その鮮烈すぎるデビューやインパクト、そして盗用アセット絡みのゴタゴタからクソゲーの代名詞…とまではいかずとも、ソレの話題で真っ先にその名が挙がるほど一般層から『伝説のクソゲー』として認知されてしまった本作…だが、今作はそこで終わるゲームではない。
ファイナルソードは間違いなく低クオリティのゲームである。そこは疑う余地はない。しかしその一方で今作が持つ一貫したゲーム性や攻略の多彩さ/楽しさは紛れもなくアクションゲームとしてのソレであり、チープな外観の裏にしっかり練られた良質なゲームデザインに魅了されたプレイヤーは多くはなくとも一定数存在した。かくいう自分もその一人である。
そんなプレイヤーたちの声に『ファイナルソード』およびその開発元『HUP Games』は行動で応えた。配信が停止してもなおファイナルソードのアプデは継続して行われ、アセットの差し替えをはじめ、バグや翻訳のミスを修正する等、着々と本作のクオリティ向上に向けた改善を行い続けたのだ。
無印の配信停止から時は流れて2021年、無印の最終アプデ版をベースにシェーダの修正や女性主人公の追加を行った決定版『ファイナルソード DefinitiveEdition(DE)』を配信、そして2022年には続編の制作が発表され、あろうことかつい先日に『ファイナルソード』がPS5に電撃配信された。挫けぬ努力が実を結んだ結果…とはいえ流石にこんなことになるなんて予想外もいいところである。
(去年の振り返り記事だが、ファイナルソードDEについてもちょこっと触れている)
無印・DE共にガッツリプレイしてきた自分だが、最早ここまできたらシリーズが終わるその瞬間まで付き合っていく覚悟である。毒を食らわば皿までとも言うしね。ファイナルソードは毒というか珍味だが。
というわけで今宵語るタイトルは『ファイナルソード』のPS5版である!そう、あのPS5だ。PS4の後継機にして現世代最高性能のハイスペック機、今年で3年目に入るがイマイチパッとしなかった本機だが、今作…『ファイナルソード』はそんな不甲斐ないPS5を救うかの如く『PS5専用ソフト』としてのリリースである。
まさかのPS移植、それもPS5専用タイトルという事実には流石にHUPの正気を疑ったが、まぁコレで新たなファン層を開拓できると考えれば強ち間違った判断というワケでもないだろう。今作を買ってる層、(自分含め)殆どSwitch版をプレイして魂を囚われた層と丸被りしてる気がするが…。
ちなみに発売元によれば『PS4版も近日配信予定』であるらしく、現状PS5専用というだけで、実際は単純に『PS5先行』という方が近いのだが、細かいことはツッコんだら負けである。PS5を持っておらず、それでも今作をプレイしてみたいという人はしばし時を待たれよ。
さて、移植とはいうが今作は事実上の『完全版』或いは『リマスター』のような作品となっている。より具体的にはDE版のファイナルソードをベースに追加要素を加え、更にビジュアルをリッチにした上でフレームレートを大幅に向上させたのが今作である。
基本的なゲーム部分については正直無印の頃と大差ないため、システムやゲーム性の話は過去記事を参照すべし。今回の記事ではPS5版での変更点や追加要素について重点的に語っていくのである。
PS5版ファイナルソードの特徴は大きく分けて二つ、『グラフィック面の超強化』と『フレームレートの大幅向上』である。
まずグラフィック面だが…これは説明するまでもないだろう。DE以前と比較してみれば一目瞭然、信じられないほど美麗になっている。グラフィックの強化というだけであれば無印→DEでも行われていたのだが、あちらが『よく見ると質感が違う』という間違い探しレベルの変化だったのに対し、こちらは一目でわかるくらいリッチになった。シェーダが変わったとかのレベルではなく、3Dモデルそのものからして別物に差し替えられている。また随所でガンガンとポストプロセス(画面全体にかかるエフェクト)が用いられているのもPS5版の特徴である。
元々ファイナルソードはその外見から感じられる『隠しきれないチープさ』のせいでただでさえ狭い間口を更に狭めていた印象が強いため、ビジュアル面での進化は大いに歓迎したい。ここまでの品質になれば流石に『見てられないレベル』は脱却できたと評価してもいいだろう。元が酷すぎただけで今も充分アレ?…うん、まぁ……そうだね……。
特に『妖精の森』『キングダム平野』あたりはこの恩恵を強く受けており、前者はポストプロセスによってDE以前にはなかった幻想的な雰囲気を醸し出すことに成功、更には最深部の明らかに毒々しいテクスチャの違和感も拭われている。後者は一面が草原だったDE以前とは打って変わって紅葉が進んだフィールドに変化しているため、より『新しいフィールドにやってきた!』という冒険の高揚感を引きだたせている。
ちなみにモデルやテクスチャがリッチになったというだけなので、ゲーム的な意味での地形はDEの頃と全く変わらない。攻略法についても同様で、あくまで見た目がよくなったというだけである。それでも受ける印象は大きく異なるため、見た目は大事だとよーく理解させてくれる。DE以前で既にプレイ済みだったとしても、今作では一風変わった感覚で冒険を楽しめることだろう。
……まぁ、その一方で『深い洞窟』のようにビジュアル強化で新たな問題(後述)が発生した例もあるケド…。
そしてもう一つの大きな変化がフレームレートの向上である。DE以前は30FPSだったのがPS5ではなんと60FPSに対応。スクショだと伝わらないのが残念でならないが、非常にヌルヌル動くようになった。
更に本体の処理性能向上によるものなのか、DE以前だと結構な頻度で発生していた処理落ちもほぼ感じられなくなった。つまり最初から最後までヌルヌルである。この快適さは実際にプレイしてみればすぐにわかるハズ。
そしてフレームレートの向上と処理落ちの改善で思わぬ副産物があった。以前の記事でも語っていたファイナルソード特有の謎判定、通称『ファイナル判定』が比較的マシになったのだ。というのもDE以前のファイナル判定は『攻撃モーションやヒットコリジョンが30FPSでの動作を想定しておらず、実際の命中するフレームをすり抜けてしまう』のが原因であった(と思われる)ためである。
(ちなみにフレームを考慮せず判定が抜けるというのもゲーム開発初心者が躓きやすい罠である)
つまりそもそものフレームレートが非常に高く、更に処理落ちも発生しないPS5版ではフレーム落ちに起因するファイナル判定がほぼほぼ修正されているのだ。
…まぁ、あくまで修正されたのは『フレーム落ちに起因するファイナル判定』だけなので、根本的に当たり判定が小さすぎる(プレイヤーの弱攻撃2段目など)とか明らかに当たり判定の設定がズレている(ワイバーン/ブラックドラゴンのブレス)とかに起因するファイナル判定は相変わらずそのままなので、そこは注意である。こればっかりは高fpsでもどうにもならぬ。
何はともあれ、これにより以前に比べると理不尽に負けるというシチュエーションが減っているため、よりストイックに本作特有の高難易度アクションを楽しむことができるようになった。仮に負けたとしてもリトライ時のロードが比較にならないほど早くなっているため、リトライ性も抜群である。
体感ではヘルウォーム等の一部ボスは行動が多少調整されているような気がする。強くなったヤツも弱くなったヤツもいるが、全体的に難易度は落ち着いたような。気のせいかもしれないケド。
また、ゲームをクリアすることで女性主人公でプレイできるようになる。これ自体はDE版からの要素なのだが、今作ではこの女性主人公を2パターンから選択できるようになった。黒髪お団子と銀髪ロングの二択なのでお好きな方をどうぞ。なおDE版での女性主人公(金髪エルフ)は選択不可、エルフがお好きならDE版をプレイすべし。
ちなみに女性主人公でのプレイは通常よりも難易度が低くなるため初心者向け。だったらなんでクリア後特典にしたのやら…というのはDE版からツッコまれてるので言わないで。
プラットフォームがPSになったことで必然的にトロフィー機能にも対応。(余程無茶苦茶なシーケンスブレイクを行わない限り)普通にゲームクリア&裏ボス撃破まで行えれば自ずと大半のトロフィーは集まるため、トロコンの難易度は非常に低い。トロフィーが追加されたことでSwitch版ではイマイチ存在意義が怪しかったレア敵『ジェリーキング』の存在感もそれなりに増している。
(戦うと異様にダルいのは相変わらずだけど…)
非常にちゃっかりだがトロフィートラッカー(進捗率表示)やアクティビティといったPS5独自の機能にも対応できている。このあたりは大御所のタイトルでも対応していない作品が案外少なくない機能なので、しっかり作られていることについては好印象である。
さてさて、ここまでの話を聞いてわかる通り、このPS5版ファイナルソードはかつてSwitchでリリースされた無印版/DE版での要素をそのまま残しつつも、グラフィック面・システム面の両面から大幅に進化を遂げた完全上位互換…と言いたいところではあるものの、ごくごく一部だがSwitch版には存在しなかった新たな問題が発生してしまっている。ここからはソレについて触れたい。
PS5になってビジュアル面の大幅強化が行われたのは先述した通りであり、いずれのダンジョンもこの恩恵を受けてかなりリッチな外観になっている…これは確かに事実なのだが、数あるダンジョンのうち『深い洞窟』に限ってのみはビジュアル強化によって新たな問題が発生してしまっている。
判らない人向けに説明させてもらうと、この『深い洞窟』というのは本作の序盤に訪れるダンジョン、大量の骸骨戦士が湧く中、最深部に向かってどんどん進んでいく。足場は不安定であり、あちこちに穴も空いているため、敵の対処に手間取っているとうっかり足を滑らして落下(=即死)するというものであった。ちなみにマップも用意されているが肝心の穴がマップに記載されていないためあんまり信頼できない。
Switch版ではここで初めて落下死の恐ろしさを理解することになるであろうダンジョンであるのだが、それでもちゃんと周囲の景色や穴の場所を認識して立ち回れば落ちる心配はほぼないというステージデザインになっていた。宝箱開けようとしてドッジ誤爆して転落するのはお約束だが。
そしてPS5版の『深い洞窟』はどうなったかというと…ものすっごくグラフィックがリッチになった。そりゃもう原型を留めない勢いで。ライティングが調整され床も見えないくらい真っ暗になり、更に足元に大量の霧が立ち込めるようになった。その結果どうなったか?穴が視覚的に全く認識できなくなった。なんなら穴どころか足場すら全く見えなくなった。
このおかげで『しっかり見ていれば回避できる』という要素だった即死穴が極悪トラップに変化、暗くなったことで視界が悪化し足場の視認性が低下した挙句、足元の霧が穴を覆い隠すようになったため、見ていれば回避できるどころか『穴の位置を事前に認識しないと避けられない』というトンデモ難易度と化している。しかし穴の位置はDE以前と同様にマップに表示されないため落ちてみないとまずわからない。
DE以前に成立した骸骨戦士の攻略法である『近付いてきたところを回避で回り込んで撃破』もロクに使えなくなった…というか穴の位置を覚えずにこの戦術を用いるのは自殺行為。特に遠距離からこちらを狙撃してくる弓スケルトンは迂闊に近付くと穴に誘導される悪質な即死トラップ。
こういった『暗すぎて画面が見えない』状況を防ぐため、大概の3Dゲームには明るさ調整機能が備わっているものであるが、生憎今作にはそういった気の利いたオプションは備わっていないため、真っ向からこの暗闇に打ち勝つ必要がある。ちなみに自分はどんなゲームでも明るさをマックスに調整しないとロクに画面が見えないゲーマーなので、このダンジョンには本当に地獄のような目に遭わされたのである。
DE以前では今作最難関のダンジョンは間違いなく『雪の山』であったが、PS5版の『深い洞窟』の理不尽具合はあちらに並ぶレベルである。逆にここさえ抜けられればあとは苦戦する要素はない。…まぁコレについてはセーブロードで死に覚えながら突破すればどうにかなるので別にいい(よくないが)。
もっと致命的なのはゲームプレイ中に発生する進行不能バグである。それも2か所、オマケに再現率100%。該当シーンは『ストーリーモード終盤でのムービー』と『裏ボス戦開始時のムービー』。
前者のケースではストーリームービー中に強制的に死亡し、以後復帰してもムービー状態が解除されない(操作できない)ため進行不能になるというもの。こちらについてはその場でゲームを再起動し、ムービー再生時に行われるオートセーブを再ロードすれば回避できる。
(ムービー状態はセーブとは別枠であるらしく、再起動しないと解除されない)
後者のケースは少々特殊で、本作を4K出力でプレイしていないとムービー中に主人公が異常に吹き飛び進行不能になるというもの。こちらは戦闘中扱いなので再ロードやオートセーブも行われないため、普通の方法では回避不可。純粋な対策は4K出力…つまるところ4Kモニタを用意してプレイすればいいのだが、4K環境は現状そこまで普及しているとも言えないため、多くのプレイヤーが遭遇することになるだろう。
(PS5は自動で出力先を検出して上限を設定するため、2Kモニタに無理くり4K出力して突破というのは不可)
推測だがおそらくコレは4K出力と2K出力でゲーム全体の処理速度が異なるためだと思われる。わかりやすく言うと2Kの方が描画が軽くスムーズに動作する分、必要以上に処理が増えて進行不能バグが生じる…というワケである。実際に有志が見つけた2K環境での突破方法も要するに『本体機能で意図的に動作を重くする(=処理落ちを引き起こす)』ものであった。
(この類のミスもゲーム開発初心者がやりがちなミスである)
現在ではどちらも解決方法がハッキリと共有されているため、そこまで影響はないとは思われるが、この記事を書き始めた時点では未だに再現率100%で発生するため、今後プレイする人は用心すべし。特に前者のイベントはストーリー進行に必須なので、誰もが一度は引っかかる。後者もトロコンには必須のイベントである。
そして地味ながらセーブロードのレスポンスも少々悪化。Switch版では『メニューを開く→スロット選択→セーブ』というステップだったのだが、PS5ではこの時にPS5のプラットフォーム側のスロット選択ダイアログが表示されるため、従来に比べてセーブにかかる時間が伸びた。まぁコレ自体は些細な変化で気にする必要もなかろう。
コレの最大の問題は『プラットフォーム側のダイアログが閉じられるよりも先にゲーム自体のポーズが解除される』ことにある。判りづらい言い方になってしまったが、つまるところセーブを行った後にある程度の操作不能時間が発生するのである。この時にも敵は問答無用で攻撃を仕掛けてくるため、酷い時には操作可能になると同時に瀕死だったりなんてことも…。
で、ロードの方はどうなったかというと、こっちもまた別の問題が発生している。セーブ時に操作不能時間が発生するようになったのは先ほど挙げた通りだが、ロードでは逆に操作不能時間が素早く解除されるようになった。
具体的にはロード後の画面暗転が解除されるよりも先に操作可能になる。そして予想通りというかなんというか画面暗転中(操作可能)にも敵は問答無用でこっちに攻撃を仕掛けてくるため、状況次第ではロード直後はすぐに動き回らないとそのまま死ぬことも…。ちなみにデータロード後の暗転(フェード)はDE以前には存在しなかった要素である。なんでこう追加要素が見事に裏目に働いておるのだ…。
今作は基本的に良くも悪くもいつでもセーブ・ロードが可能なシステムなのだが、これらの問題のせいでPS5では今まで以上にセーブを行うタイミングに気を付ける必要がある。
さてさて、繰り返しになるが、本作最大のネックであったビジュアル面を強化したうえで、ハイスペ機の恩恵に肖りプレイの快適さすらも追及した『ファイナルソード(PS5)』はありとあらゆる意味でSwitch版をパワーアップさせた文字通りの完全版である。
バグをはじめとしたまだまだ問題点も山盛りであり手放しに『名作』『良作』といった評価を行えるクオリティには達していないのは事実であるものの、それでも純粋に『高難易度アクション好き』には心からオススメできる段階にまでは進化したと言っていいだろう。
これまでファイナルソードを追いかけ続けてきた人…は言わなくても既にプレイ済みだろうからさておき、これまでファイナルソードを食わず嫌いしてきた人も、是非是非このPS5版でファイナルソードデビューをしてみて欲しいのである!今後配信予定のPS4版でもいいぞ!!