古来よりゲームとゲームレビューは極めて密接な関係にある。かつてはゲーム雑誌によるレビューであったり、個人ブログやレビューサイトへの寄稿などせいぜい狭いコミュニティ内でのみ存在する文化であったが、SNSやYoutubeの台頭により一般人が気軽に自らの意見を世に発信するハードルが下がったことで、この文化はより多くの人々に伝わっていった。
令和の時代、やろうと思えば誰だって自身の意見を全世界に向けて発信できるようになった昨今ではゲームではなく『ゲームレビュー』をメインとした配信者も現れるなど、『ゲームレビュー』は『ゲーム』とは異なる新たなエンタメへと昇華したと考えてもいいだろう。
そのゲームをわかりやすく紹介する人、面白おかしく脚色してみる人、大衆によく知られる名作に触れる人、知る人ぞ知る傑作を発掘する人…扱うジャンルやトークの内容などその方向性は千差万別ではあるが、どんなレビュアーにも必ずファンは存在し、レビュアーを通してゲームそのものを知る人だって少なくない。どんな名作でも認知されなければハナシにならないので、形はどうあれゲームの知名度が広がるのは実に喜ばしいものである。
…ただし我個人としてはこの現状は些か不健全なものでもあるとも感じている。むろんゲームレビューが悪というわけではない。言わずもがなゲーム自体も悪ではない。ならば何が不健全かと言いたいのか、『実際にゲームを遊んでいないのに知った口を聞く人間の多さ』である。
というのも、ゲームレビューを目にした人の反応の中には『〇〇さんが紹介していて興味を持ってプレイしました』など理想的なケースも当然存在する一方で、『XXさんがクソゲーと言ってたからコレはクソゲー!』などと言い出す人も少なくないからだ。そして前者と後者どちらのケースが多いのかと聞かれれば、悲しいかな後者の方が多い。前者はゲーム購入+プレイというステップが必要なのに対し、後者は伝書鳩の如くレビューと同じことを吹聴すればいいだけ…とハードル自体に雲泥の差があるからだろうが…。
かくいう我とて『悪評は散々耳にしてこそいるが実際には遊んでいない』というゲームはそこそこ多い。我はそんなゲームに対し決して口を開くような真似はしない。コレは『ゲームを語る権利は実際に遊んだプレイヤー以外に存在しない』という我個人の思想・信条によるものである。自分以外の誰かの感想だけを鵜呑みにし、ソレをただ広げるだけのスピーカーに成り下がる…それは我が何よりも嫌う行為なのだ。
…こんなことばっか書いてるから我がブログの読者は一向に増えないんじゃろなぁ。
とはいえ世間一般の評判というのは基本的にセンセーショナルな方に流れがちで事実とは異なるモノも多い。一過性の話題(エンタメ)で消費するだけならそれでもいいかもしれないが、ゲームとは元来遊んでナンボのモノである。評価なんてプレイヤーの数だけ存在してしかるべきだし、もしかしたらそのゲームがトンデモナイ低評価の烙印を押されていても、いざ遊んでみたら自分だけには死ぬほど刺さった…なんてことだってあり得る。コレはもちろん逆も然り。
実際、我が過去に本ブログで触れた『ファイナルソード』も『バランワンダーワールド』も世間一般での評価はハッキリ言って酷いモンだが、我個人としてはそこまで悪い印象は抱いていない。確かに世間で言われるような問題点こそあれど、光る部分は間違いなく感じられたし、だからこそ『ファイナルソード』に至っては2020年からかれこれ3年間に渡ってプラットフォーム(Switch→Switch→PS5→PS4)を移しつつ遊び続けていたワケである。
他人の評価なんてのはあくまで他人のもの。自分自身の感想は自分で遊んでみなければわからないものなのだ。もっともコレは本ブログで語っているゲーム記事についても同じことがいえる。本ブログの内容はあくまで我個人の感想&印象による紹介であり、諸君らが本ブログの情報を基にそのゲームを手に取ったとして、同じ印象を持つとは限らない。
その逆に仮に本ブログで酷評しているゲームがあったとしても、ソレをゲームを敬遠する理由にするべきではない。もしかしたら食わず嫌いなだけで触ってみたら個人的に意外といける…なんてこともあるかもしれないのだから。そのことはどうかこれからもずっと覚えていてほしい。
…こんなことをワザワザ書くということは、とどのつまり今回の記事で語るゲームはそこそこヤッベェゲームだというコトを意味しているのだが、それはさておき今宵のゲーム語りを始めるとしようか。
…諸君らは『Plumbers Don't Wear Ties』というゲームを知っているだろうか。1993年に発売し日本語に訳するならば『配管工はネクタイをしない』或いは『配管工はネクタイを締めない』といったタイトルになるこのゲームは、ネット上の一部の界隈において絶大的な知名度を誇る作品である。ただしその知名度はポジティブな意味合いではなく、むしろネガティブな意味合いで広まったもの。元々さほど高い評価を得られていなかった作品でこそあったが、ある時…具体的にはJames Rolfe(ジェームズ・ロルフ)氏の『Angry Video Game Nerd(AVGN)』によるレビュー動画が投稿されたのを皮切りに、瞬く間にその名は日本を含めた世界中へと知れ渡ることとなった。
本作のゲーム内容と問題点を端的に、それでいて的確に指摘しつつユーモアへと昇華させていたロルフ氏の動画のクオリティもさることながら、その内容の衝撃的っぷりに全世界は虜となり、やがては本作の存在を知る大多数の人々が口を揃えてこんな反応をするようになった。『Plumbers Don’t Wear Ties(配管工はネクタイを締めない)は史上最低のクソゲーである』と。
…だが、本当にソレでいいのか?考えてみてほしい。動画を見た人々はあくまでロルフ氏の動画を見て本作の存在を知っただけであり、実際にプレイしていた訳ではない。記事冒頭でも触れたことだが、ゲームを評価できるのは実際に遊んだプレイヤーだけであるし、世間での評判は自分個人が遊んだ印象と必ずしも一致するとは限らない。にも関わらず、遊んだことのないゲームを『クソゲー』と断ずることに何かモヤモヤはないのだろうか?…いやもしかしたらマジで発売当時プレイしていた人もいたかもしれないが、その可能性は(少なくとも日本においては)限りなく低いと考えられるため考慮しない。
我もそんなモヤモヤを長年抱え続けていた。氏の動画は我も見ていたし大変面白い内容ではあった。だが我は『Plumbers Don't Wear Ties』を存在と概要しか知らない。遊んだことなど当然ない。ゆえに我にはこのゲームのことを評価したり語ったりする資格も権利もなかったのだ。この状況を晴らす手立てはたったひとつ。そう、『Plumbers Don't Wear Ties』をプレイすることだけである。
しかしそうもいかない理由もあった。このゲーム、絶大な知名度を誇る一方で市場への出回りが極めて悪かったのだ。大前提としてプラットフォームは3DO(とWindows3.1)なのだが、まぁこの3DOがお世辞にもヒットしたとは言い難いハードであり、その時点で入手のハードルが高い。そのうえで本作は日本未発売…なんなら海外でも北米でのみ発売されたゲームなのだ。さらには後年にカルト的人気が出たゲームということもあり、ソフトそのもののプレミア化まで引き起こしている。こんなザマゆえに手が出したくても出せるものではなかったのだ。
…だが、本作の発売から実に28年が経過した2021年に突如光明が差すこととなる。何をトチ狂ったのか本作『Plumbers Don't Wear Ties』のリマスターが発表されたのだ。発表を見た時はメーカーの正気を疑い、夢である可能性すら脳裏に一瞬浮上したが生憎夢などではなかった。だがこれによってプレイ環境を揃えるのが容易となったのは事実である。そして発表から3年後の2024年、ついにリマスター版が配信されたこともあり、念願かなってついに我は『Plumbers Don't Wear Ties』をプレイすることができたのだ!!
というわけで今宵の記事では『Plumbers Don't Wear Ties(配管工はネクタイを締めない)』について語っていく。とはいえプレイ環境はリマスター版の『Plumbers Don’t Wear Ties Definitive Edition』であることは先んじて明記しておく。ひとまずオリジナル版から存在した(と思われる要素)を語ったのち、今回のリマスターで新たに追加された機能やシステムについて触れていくとしよう。
さてさて本作はシナリオを読み進めつつ、時折現れる選択肢を選んでゲームオーバーを回避していく…ということから理解できる通り、ゲームジャンル的にはアドベンチャーに分類される。ここで本作ならではの特徴を挙げるとすれば『ゲーム全編が実写画像である』点。
実写を取り入れたアドベンチャーゲームといえばチュンソフトの『街』や『428』あたりが代表例として挙げられるが、実写画像はあくまで『背景』止まりでサウンドノベルらしく『テキストを読み進める』ことに重点が置かれてあったあちらとは異なり、(オリジナル版の場合)本作では実写画像と共にテキストが表示されることはない。ならばどうやってシナリオが進んでいくかというと…ズバリ音声である。本作ではテキストを読み進める場面は極論一切ない。物語の展開は全て作中人物のボイスで進行するからである。
つまり本作は『実写画像と共に流れる音声を聞きつつ、定期的に出てくる選択肢を選び物語を進めていく』というゲームである。テキスト送りにボタン入力の必要すらないので、プレイヤーの感覚は『ゲーム』というよりは『映画』『ドラマ』を見ているのが近い。本作よりも後の時代の産物だが、一時期の雑誌付録なんかで見られた『チャプター分けで分岐を作った映像作品』みたいなイメージをしてくれれば大体あっている。
(DVDが出て間もない頃は見かけたが今でもああいうのあるんじゃろか)
とはいえ本作で流れるのは実写の『画像』であり『映像』ではない。一応、初めてゲームを遊ぶときにジェーン(ヒロイン)が本作を紹介する実写映像が流れるのだが、作中において『映像』と呼べるのはここだけ。身も蓋もないことを言ってしまえばこのゲームは『音声付きの画像スライドショー』といった形式である。
何はともあれADVならば誰もが気になるであろうシナリオから触れていこう。なお本記事ではエンディング内容も含めたクリティカルなネタバレにもそれなりに触れてしまうので、一切のネタバレを触れたくないという人はここでブラウザバックを推奨しておく。ちなみに本作の『配管工はネクタイをしない』というタイトルは本作の主人公のひとりが配管工であることに由来するほか、ネクタイ自体もOPや一部のエンディングやバッドエンドにて地味に絡んでくる。
さてさて本作のあらすじを簡潔に説明すると『それぞれの親に結婚を急かされたJohn(ジョン)とJane(ジェーン)が偶然出会い、紆余曲折を経て結ばれる』といったものである。この説明だけなら短編の恋愛ドラマ的なものをイメージすることだろうが、本作のオハナシはプレイヤーの想像の斜め上の方向へとすっ飛んでいく。
例えば本作の敵役ともいえる面接官のスレッシャーが就職のためやってきたジェーンに服を脱ぐよう迫り、逆上したスレッシャーと追われるジェーン、そして彼女を救おうとするジョンが駆け回る展開があるのだが、何故かその途中でハリウッドを経由し普通の観光写真のようなものが混じるようにもなってたりするのがそれだ。ほかにも明らかに最重要ともいえるシーンである人物が台本のセリフを間違え撮影スタッフに突っ込まれる場面まであったりする。一応言っておくがこの場面はオマケ等のNGシーンなんかではなく、メインシナリオの中に組み込まれている。
しかも恐ろしいことに上述したのはいずれもバッドエンドにならなかった場合の展開であり、バッドエンドに行くような選択を行った場合は『ノリノリでスレッシャーに対し女王様になるジェーン』『ジェーンそっちのけでジョンとスレッシャーが意気投合する』などなど更にプレイヤーが想像だにしていない方向へと突き抜けていく。
そしてゲーム内では『ナレーター』がキャラとして登場。ナレーターは進行役である一方である種のメタ存在でもあり、プレイヤーに対し直接会話を持ち掛けてくる…のだが、要所要所で急に流れをぶった切って現れてくるため非常にうざったい。そのうえでやたらプレイヤーを罵倒してくる台詞が多いほか、何故か衣装のバリエーションも無駄に多く理由もなくちょくちょく姿が変わる。こういった彼の行いに何かしらシナリオ的な意味合いが用意されているのであればまだ理解できるが、困ったことにそんなものは全くない。なんてったってナレーターはシナリオ中に出てくることもなければ、ジョンやジェーンといった作中人物の前に現れることすら一切ないからである。つまるところただプレイヤーを惑わすためだけに存在するお邪魔キャラなのだ。
なおそんな腹立つナレーターはテルマという進行役をジャックしようと現れた謎の空手ガールに襲われ退場する一幕があり、公式的にはそれで溜飲を下げろというハナシなのかもしれないが、テルマもプレイヤーを容赦なく罵倒してくるのは変わらない。しかも結局元々のナレーターが逆襲して復帰してしまうので何がしたかったのかがサッパリわからない。重要なことなので今一度言うが、ナレーターに纏わる一連の展開は一切ジョンとジェーンの物語に関係しない。何故入れた。
ほかにもゲーム開始直後のOPでカメラが女優さんの胸にやたらフォーカスされていたり、序盤にデカデカと挿入される『The following scene displays graphic. gratuitous nudity!!(この先、過激なヌード描写があります!)』などという警告画面からはじまり、台詞すらなくBGMと連続して切り替わる静止画だけで進行する一部画面、先に挙げたナレーター絡みのゴタゴタや台本ミスも含め、その様相は平たく言ってカオスの一言。意図的にそうしている…というよりはやりたいこと・思いついたことを全部突っ込んだ結果とっ散らかっているタイプの混沌である。
というか奇妙なのはシナリオだけではない。先述したように本作は実写画像をバックにフルボイスでゲームが進行していくのだが、どういうわけかこの実写画像に奇妙な加工が施されている。衝撃的なシーンにおける色調反転(ネガ)程度なら『ショックを受けたキャラの心理描写』と受け取れなくはないものの、特に理由もなく画像にブレが発生していたり、画像が上下反転していたりと明らかに説明できないような謎加工がかけられている場面は少なくない。とりわけゲーム冒頭のサーキットの場面にトリミングされてないパンダの画像が貼り付けられてたりなんかする点はその筆頭。
…とまぁこんな風に要素要素について触れていくと『どこに褒められるべき点があるんだ?』と思ってしまうかもしれないが、意外と我は本作をプレイしてそこそこ楽しませて貰ったのも事実である。確かにシナリオだけに目を向けるとだいぶアレなのは間違いなく、実際初めて遊んだ時は最初のジョンとジェーンの会話シーンの時点で『早く終わんねェかなコレ…』ってなるほどだったが、終盤には気が付くと笑顔になっていたのだ。コレは『終盤になるとシナリオが面白くなる』という意味ではなく、プレイヤー側がこのゲームに対するスイッチを切り替えただけに過ぎない。要は感じ方の問題である。
本作にはおかしな要素やボケが多数用意されているものの、ソレを突っ込む存在は作中にはいない。その役割はほかでもない画面の前のプレイヤー自身にある。それを理解してからは本作が飛躍的に楽しくなった。本作には重厚なドラマも、ドキドキワクワクなゲーム性なども必要ない。本作はちょっと滑ることもあるシュールで不条理なギャグが飛び交うコメディ・ショーとして受け止めるべきなのだ。なかでも先ほど問題点のような扱いで挙げた『スレッシャーとの追いかけっこ』のシーンは楽しみ方を理解してからは本作で最も面白い場面であると感じている。途中から明らかなギャグも交えられている点も含め、なんだか『トムとジェリー』あたりを見ている気分になれた。
さてさて本作はADVなのでもちろん『選択肢』の概念が存在する。ゲーム中の特定の場面に差し掛かる度に選択肢が表示され、どれを選んだかで先の展開が変化する。とはいえ選択肢は基本的に『バッドエンド直行orゲーム続行』というスタイルなのでわかりやすい。バッドエンド後は決まって『直前の選択肢からやり直すorタイトル画面に戻る』という選択肢が表示されるのは地味に親切。
各種選択肢にはその後のシーンの画像もセットでくっついているのは結構珍しいポイントか。おかげさまで一部の選択肢が選ぶ前からその後の展開をネタバレしてたりするのはご愛敬。選択肢にカーソルを合わせた際にはその選択肢に応じたボイスも流れる。
システム方面での奇妙なポイントとして、本作には何故か『SCORE(スコア)』の概念が存在し、作中の選択肢を選んだ時点でその内容に応じたスコアが加算/減算される。ところでADVでスコアなんて何に使うのか気になる人も多いだろうが、ぶっちゃけスコアが影響する場面はどこにも存在しない。スコアを基準とした分岐などはもちろん、クリア後にリザルトが保存されるなんてこともない。いちおうゲーム中にナレーターから『貴方はこれまでサイアクの選択をし続けたわね。その分をスコアから差し引いたから覚悟なさい!』などと言われ、大幅にスコアが減少する場面があるがそれだけである。
(そもそもここに限らずスコアの増減は選択肢を選んだ"瞬間"に行われてるのだが)
…というか本記事を書くにあたってゲーム中の全ての選択肢のスコアの変動量を検証してみたところ、終盤になるにつれて逆転モードに入ったクイズ番組も真っ青なレベルで雑な加点/減点が行われるようになっていたため、スコアによる分岐が用意されていなかったのはある意味幸いかもしれない。なおスコア変動量の纏めは本記事の終わりにオマケ扱いで載せておくので興味があれば見てみるといい。というか見てくれないと我の頑張りがマジで無意味と化すので見てほしい…。
それでは『Plumbers Don't Wear Ties(配管工はネクタイを着けない)』という作品の概要について触れられたところで、ここからはリマスター版の紹介および追加要素について紹介していこう。リマスター版、もとい『Definitive Edition』の販売を手掛けているのは『Limited Run Games』、人気のレトロゲームの復刻のほか、日本を含めた世界中にインディーズタイトルのパッケージ版をリリースしているところである。過去記事で触れた中だと『サムライジャック:時空の戦い』の北米版パッケージを購入するのに利用した記憶がある。…後に日本でもパケ版出たけど、あの時は日本未発売+海外でもパケ版がなかったのよね。
なんでも本作『Plumbers Don’t Wear Ties』は数あるゲームのなかでもとびきり復刻要望が多かった作品だったとのこと。リマスター版のプラットフォームはSwitch/PS4/PS5/XSX/One/PCの現行機種全部コース。どのハードを所有していてもプレイ可能である。要望出したヤツはちゃんと買ったんだろうな…?
ただし元々のゲームが日本未発売であることからも理解できるように本作もやっぱり海外オンリーでのリリース。DL版なら手に入れられなくもないが、(少なくともSwitchとPSは)例によって例の如く北米アカウントと北米プリペイドカードが必要となる。
今回我はSwitch版をチョイス。というのもPSはPS5になってから『例え同じ本体にインストールされていても、購入したアカウント以外ではプレイできない』という不便な制限がかかるようになってしまったからである。その点Switchはメインアカウントと購入専用の北米アカウントを同じ本体に登録+両方で『いつも使う本体』設定にしておくことで、メインアカウント(日本)で海外専売ゲーを遊べるからありがたいのだ。まぁプレイまでの手順だけでいえばストアそのものがリージョンフリーらしいSteamとXboxが一番お手軽なんだろうけども。
(この影響で過去記事で触れた『カワイイデスデス』がPS5のメイン垢で起動できなくなっている)
さて、リマスター版を起動するとまずはひとつのムービーが流れ始める。画質は絶妙に荒く、時には表示が大きく崩れることもあれば、なんと女優さんの胸に向かってじっくりとカメラもフォーカスしていく場面も…要素だけ見ていけば先に触れたジェーンによるゲーム紹介オープニング…のように見えるが、よくよく見てみると画面の解像度が現行機のソレに合わせられている…これはいったいなんだ?
答えは至極単純、このムービーは今回のリマスター版で新調された『オリジナル版を徹底的に踏襲したリマスター版のオープニング』である!映像自体は新たに撮影されたものであるが、わざわざ当時のソレに近くなるようクオリティを下げる編集が行われているのだ!!このオープニングが端的に本作(リマスター版)がどういったものかプレイヤーに伝えてくれている。
この『Plumbers Don't Wear Ties Definitive Edition』は世界的な意味で低評価を受けてしまった『Plumbers Don't Wear Ties』という作品を文字通り現代向けに『復活』させた一本である。当時のアレさもそのまま残しつつ、それでいて本作ならではの遊びを体験しやすく細かな調整が加えられているのだ!
ゲームとしての作りは相変わらずアレなままだが、一方で遊びやすさは目に見えて向上、その作りからは『オマエら、ほんとにこのゲーム遊びたいんだな?どんなゲームかわかったうえで手を出したんだな?いいぜ、よーく味わえよ!!』というスタッフからの強い想いを感じられる。
リマスターでの追加要素でとりわけ大きなポイントとして挙げられるのは『画像単位でのスキップ機能』、一度でも見たことのある場面に限りRを押すだけで次の画像までスキップを行うことができるほか、ZRを押すと次の選択肢まで飛ぶこともできる。これにより周回プレイ時にいちいち最初からボイスを聞く必要はなくなったのがありがたい。また一度ゲームをクリアしてからは『フローチャート』が解禁、フローチャートはシーンセレクトも兼ねており、以降は任意のシーンからゲームを再開できるようになった。バッドエンドの回収をしたいときに実に役立ってくれる。
念願の『字幕表示』にも対応。当然ながら対応言語は英語のみなので、まだちょこっとハードルが高めなのは変わらないが、それでも字幕なしだった従来のものに比べると遥かに物語が理解しやすくなっただろう。現行機ゆえにスクショ撮影→英文を翻訳とすれば英語がわからない人でも充分楽しめるハズ。
画面比率の都合で左右に表示されてしまう黒枠(ピラーボックス)も変更可能。なお変更可能なラインナップは『OPのパンダ』『ジョンの脇』など絶妙にヘンテコなものが多い。あとゲーム内ではいつでもワンボタンで画像をスムージングされたものへ切り替えられるようにもなった。…もっともコレについてはスムージングしたところで元々の謎補正は変わらないので、より画像の違和感が際立つだけかもしれないけれど…。
オプション画面では先に挙げたピラーボックスのほか音声・字幕の項目が存在。これらを利用することで言語が変更できる!…ように見えるが言語選択メニューにあるのは『English』だけ。つまるところ対応言語は英語オンリーで英語以外選択できないにも関わらず、何故か言語選択ができるようになっている。マジかよ。ついでにオーディオ設定の項目もあるが、こっちはこっちでモノラルしか選択できない。
本編部分においては大枠のシナリオやセリフ・ボイスに違いはないものの、一部の演出が差し替えられてたり抹消されていたりする。差し替えられている点はオリジナル版のメーカーである『Kirin Entertainment』のロゴが表示されている場面が主。演出の削減はナレーター同士のゴタゴタでテルマがマシンガンに撃たれる演出が修正されている。ご時世的な問題なんだろうか。オリジナル版でも写真に弾痕イメージの穴が空くだけだったのでレーティング的にまずい要素はなさそうだが。
そしてこういった旧作復刻には付き物の『Galleries(ギャラリーモード)』を新規で搭載。なお見た目から到底そうは思えないのだが、『ギャラリーモード』と先に挙げた『フローチャート』は凄まじく操作性が悪い。コレは狙っているのか、それとも…?
閑話休題、ギャラリーモードではゲーム本編内で使用されている全ての画像(Image Gallery)はもちろん没になってしまった画像(Unused & Deleted Scenes)も収録、開発資料や当時のパッケージを再現した3Dモデル(Model Viewer)を眺めることができたり、スタッフをはじめとした関係者のインタビュー映像(Video Gallery)も多数収録!なおインタビュー対象には本作が広く知れ渡る立役者ともいえるAVGNことJames Rolfe(ジェームズ・ロルフ)氏の姿も。
ただしデフォルトではギャラリーモードの大半の要素はロックされている。プレイヤーはこれらを解禁するためにリマスター版で追加された新モード『Plumb the Depth』に挑まなくてはならない。『Plumb the Depth』を起動すると、なんといきなり主観視点で3D迷路に放り出される。…いやワケがわからないと思うが実際その通りなのだ。
プレイヤーはこの3D迷路を自由に歩き回っていくことになる。迷路は非常に入り組んでこそいるが形は(おそらく)固定、特定地点にあるウィンドウ(?)に触れることでインタビュー映像などギャラリーモードの要素をアンロックすることができる。アンロックには通貨『BUCKS』が必要だが、コレは本編をプレイすればするほど溜まっていく。
しかしながら迷路の中には敵キャラも登場。迷路の探索中に足音が聞こえてきたら危険のサイン。足音が近いといよいよ『ヤツ』…本編の敵役でもあったスレッシャーが登場。なおその姿は本編中の鬼ごっこシーンからの雑切り抜き。マトモにトリミングすらされてない画像2コマでカクカクしながら近付いてくる様はなんともシュールである。
非常に間抜けな見た目だがうっかり触れてしまうとゲームオーバーなので要注意。迷路のどこかにあるスッポンを拾っておくと、ソレをFPSの要領でスレッシャーにぶち当てることで撃退できるので、見つけたら回収しておくのをオススメする。
…とまぁ、これが色々な意味で伝説となっている『Plumbers Don't Wear Ties』のリマスター『Plumbers Don't Wear Ties Definitive Edition』の概要である。元々のゲームにおけるダメな部分すらそのまま徹底再現し、更には低評価の要素をバネにして逆にネタへと昇華しているその在り様は、ある意味ではオリジナル版に対するリスペクト精神に満ち溢れていると言っていいだろう。
一方で無意味な言語選択に謎の3D迷路、おっそろしく悪い一部操作性など新たに追加された点でも結構な問題点を抱えてしまってはいるのだが、奇妙なことにそれらも『狙ってやってる』感がどこかあるのがどうも憎めない一本である。これは推測だが、おそらくリマスター版でもまだまだ残っているアレなポイントは、『低評価が知れ渡っている本作をこの時代にあえて購入するような物好きは、もとよりそんな問題点など織り込み済みであろう』という開発側の妙な信頼感があってこそのものなのかもしれない。
(Take your damn clothes off!! 訳:『服を脱げってンだよ!!』、本作の特に有名なシーン)
元々のゲームの要素をほぼそのままリマスターしつつ遊びやすさだけは改善したこの本作、元が元なのでそう迂闊に人に勧められたものではないのは百も承知だが、それでもほんの少しでも興味を抱いているのならば手を出してみるのもいいかもしれない。DL版のお値段も19.99ドル(約3,000円)と安価…とまではいかないがそこそこお安めなので、十分冒険できる範疇ではある。
色々な意味で衝撃的すぎた問題作『Plumbers Don't Wear Ties(配管工はネクタイをつけない)』…その存在だけは知っていた人も、この記事で初めて存在を知った人も一度はぜひともプレイしてみてほしいのである!!コレはコレで新しい境地を開拓できるかもしれないぞ!!
『Nintendo Switch(本体)』のAmazonページ
---オマケ---
本記事でスコア周りのテキストのため、諸々検証してるうちに作成した『ゲーム中の全選択肢の分岐』および『選択肢ごとのスコアの増減量』のまとめ。『SC』となっているのはゲーム内のフローチャート上の表記。見てわかる通り終盤になるにつれて雑にスコアが加算/減算されている。
なおスコアはゲーム開始時やゲームオーバー時にリセットされないので、特に意識して稼ぎを行わない場合スコアは減っていく一方。どうしてもスコアを高く保ちたい場合はフローチャートでSC13へ飛び、スレッシャーを変態にする選択肢(+50000点)を選び、すぐにポーズからリスタートしてフローチャートで…と繰り返すといい。大事なことなのでもう一度言うが本作のスコアに意味はない。
…多分この世で最も需要のない攻略情報だと思うが、せっかく作ったのでこの際もう意地で掲載している。
- SC00:冒頭(2周目以降)
- SC07:駐車場
- SC08:駐車場2
- SC13:面接
- SC20:変態スレッシャー
- SC23:スレッシャーとの鬼ごっこ
- SC25:スレッシャーとの問答
- SC29:最後の分岐
- SC30:ハッピーエンド
- バッドエンド後(汎用)
SC00:冒頭(2周目以降)
Gimme full story!
『全部のストーリーを見たい!』
→最初からゲームスタート、スコア+10000点Go to the first decision!
『最初の選択肢に行くぜ!』
→SC07の選択肢からスタート、スコア変動なし
SC07:駐車場
He makes a first move!
『最初のアプローチは彼から!』
→スコア+10000点Jane makes a move on him!
『最初のアプローチは彼女から!』
→バッドエンド(SC12)、スコア+10000点Meeting has to wait!
『出会いはあとまわし!』
→バッドエンド(SC12)、スコア-20000点
SC08:駐車場2
John pursues Jane
『ジョンはジェーンにアタックした』
→スコア+10000点He plans a vigorous assault later on!
『アタックすべきは今じゃない』
→スコア+10000点
SC13:面接
Thresher finds a job for Jane after all!
『スレッシャーがジェーンの仕事を見つけてくれた』
→バッドエンド(SC16)、スコア-10000点Turn poor Jane away!!
『ジェーンは追い返されてしまった』
→バッドエンド(SC18)、スコア-10000点The hairball takes advantage of the situation!!
『変態野郎はこの状況を悪用した!』
→スコア+50000点
SC20:変態スレッシャー
Our heroine declines the digusting proposal!
『我らがヒロインは穢れた交渉に屈しない!』
→スコア-90000点She'll do anything to get the job??!!
『就職するため彼女は手段を選ばない!?』
→バッドエンド(SC22)、スコア-90000点
SC23:スレッシャーとの鬼ごっこ
John heroically dashes off to save Jane!!
『ジョンはジェーンのため駆け出した!』
→スコア+50000点John distract Thresher from the chase!!
『ジョンはスレッシャーを止めようとした!』
→バッドエンド(SC28)、スコア-50000点
SC25:スレッシャーとの問答
Jane goes for it!!
『ジェーンは揺らいでしまった!』
→バッドエンド(SC26)、スコア-75000点Jane rejects the power.
『ジェーンは意地でも拒絶した』
→スコア-90000点
SC29:最後の分岐
I want the Hollywood ending!!
『ハリウッド的な結末を見たい!』
→スコア-20000点Gimme something completely different!!
『一味違った結末を所望する!』
→バッドエンド(SC31)、スコア+90000点
SC30:ハッピーエンド
I wanna see Just who's behind this!! Gimme the credits!!
『このゲームを作ったのは誰だ!クレジットを見せろ!』
→エンディング(SC32)、スコア+90000点Take me back to the first decision!!
『最初の選択肢に戻してくれ!』
→ゲーム冒頭へ、スコア変動なしEnd this thing.
『もうやめたい』
→ショートカット画面へ、スコア変動なし
バッドエンド後(汎用)
Give me another chance!
『もう一度チャンスをくれ!』
→直前の選択肢へ戻る、スコア-20000点Restart game!!
『最初からやり直しだ!』
→ゲーム冒頭へ、スコア変動なし