1984年、冷戦時代のソビエト連邦に天才がいた。その名はアレクセイ・レオニードヴィチ・パジトノフ(Алексей Леонидович Пажитнов)。ソビエト社会主義共和国連邦科学アカデミー(ロシア科学アカデミー)に所属していた彼は2人の仲間と共にひとつのゲームを開発することになる。敷き詰めパズル『ペントミノ』を簡略化した形のブロックが画面上部から降り注ぎ、プレイヤーはソレを隙間なく埋めていく。横1列にブロックを揃えられたならそのラインが消え、画面上部まで積みあがってしまったらゲームオーバー…そう、この説明で皆様もうおわかりであろう。アレクセイ・パジトノフが仲間たちと共に生み出したゲームとは『Tetris (テトリス)』である。
『テトリス』は瞬く間に世界中へと広がった。当初はアカデミーという閉じたコミュニティ内でのみの流行だったひとつのゲームは、その面白さに魅入られた者たちの手でコピーを繰り返されソ連全土に流行、やがてハンガリーのアンドロメダ・ソフトウェア社およびイギリスのミラーソフト社によってアメリカ合衆国にまで渡った。ソビエト連邦で誕生したゲームがアメリカ合衆国へ…そう、ゲームという娯楽が米ソ冷戦の『鉄のカーテン』をも乗り越えたのだ。
テトリスの大躍進はまだ止まらない。『ソ連がアメリカの生産性を下げるために開発した兵器だ』なんてジョーク(都市伝説?)まで囁かれるほどテトリスはアメリカで大ヒット。またその勢いに乗じてPCからアーケードやCS機向けにも移植され、更に世界中の幅広い層へと届けられた。もはやテトリス人気は特定の国家だけでなく全世界にまで広がっていた。テトリスは元祖『落ちものパズル』として同ジャンルの決して崩れることのない金字塔にまで登り詰めたのだ。
…まぁあまりにも爆発的に全世界へと広まりすぎたが故か最初期はライセンス管理がハチャメチャなことになっており、結果としてテンゲンが盛大にやらかしたり、そのとばっちりでSEGAがメガドライブ版テトリスをお蔵入りにせざるを得なかったりと色々あったのだが…。
『テトリス』の人気は未だ衰えることを知らない。作品を重ねるたびに『HOLD』『スーパーローテーション』『T-Spin』などのシステムが少しずつ追加され、今ではライセンスを統括管理する『ザ・テトリスカンパニー』が定めた基本ルールのもとで、歩みを止めることなく進化を続けている。
現行機の主なテトリスといえばありそうでなかったバトルロイヤル形式で気軽に楽しめる『テトリス99』、他社コラボといえど競技性を高めた対戦型テトリスの最新作『ぷよぷよテトリス2』、そして良質な演出に浸りながらストイックにハイスコアを求めるソロプレイ特化の『テトリスエフェクト』があり、どれも基本ルールこそ共通ながら独自の強み・味わいを感じさせてくれる。
(あとは『テトリスダイヤモンド』やアケアカの『TGM』『TGM2』なんかもあるがここでは割愛)
だからこそ我は今も昔も『テトリス』という作品をかなり気に入っている。実力については正直ヘタクソとしか言いようがないのだが、今でも『テトリス』が出たらとりあえず買ってしまうし、一時期は趣味で『Tetrisの名を冠するCSゲーム』を片っ端から収集していた時期もあった。いつぞやの過去記事で『パネルでポン』の海外事情をやたら知っていたのはテトリス収集の過程で『Tetris Attack(北米版パネポン)』や『Tetrisphere』と出会っていたからである。…なおこのテトリス集めは北米版バーチャルボーイの『3D Tetris』がマジで入手できずそこで止まってます。
↑ちょこっとだけ『Tetris Attack』に触れている過去記事
そしてそんな下手の横好きテトリス愛好家の我が決してスルー出来ない作品が、先日ついにリリースされたのだ!!その作品とは『Tetris Forever (テトリスフォーエバー)』!!というわけで今回の記事ではこの作品についてガッツリ語っていくとしよう!!テトリスが誕生したのは1984年6月6日のこと。そう、テトリスは今年で40周年!『Tetris Forever』はテトリスシリーズの40周年記念作品である!!
40周年作品というコトで本作はミュージアム要素も兼ねたコレクション作品になっている。開発を担当しているのはアメリカのデベロッパー『Digital Eclipse (デジタルイクリプス)』、いくつものゲーム作品のリマスターやコレクションを手掛けているメーカーであり、我がブログの過去記事的には『ATARI 50: The Anniversary Celebration』を開発したところである。X周年記念作品・過去作コレクション・資料収録といった共通点からも察せられる通り、本作のフォーマットは『ATARI50』のソレとほぼ同一。『ATARI50』の構成はこういう歴史振り返り系のアニバーサリーソフトとの相性が良いのだろう。
というわけで本作『Tetris Forever』は『ATARI50』の系列作品ともいえる。それもあって本記事においては『ATARI50』を比較対象に出す箇所がちょくちょく見られるので、よく知らない人は『ATARI50』の過去記事を先んじて読んでおいた方が理解しやすくなるかも。…テトリスとアタリとかいう組み合わせに運命というか因果のようなものを感じるが気にしてはいけない。テンゲン開発のNES版『TETЯIS』?知らんなぁ…。
プラットフォームはSwitch/PS5/PS4/XSX/One/PCの現行機種全部コース。今回はPS5版をチョイス。当初は海外限定発売だった『ATARI50』とは違い、本作は日本版も同時発売。安心して各プラットフォームのストアから購入するべし。なお今回はパッケージ版は一切存在しないようだ。
Ch.1: 完璧なゲーム(THE PERFECT GAME)
Ch.2: 解き放たれたテトリス(TETRIS BREAKS FREE)
Ch.3: 版権を巡る戦い(TETRIS MANIA)
Ch.4: 次世代のテトリス(THE NEXT PIECE)
Ch.5: テトリスがある世界(A TETRIS WORLD)
我が『ATARI50』にて高く評価していたミュージアム然としたデータベースの魅せ方は本作でも相変わらず。年表を横に進めると時代が進み、縦に潜るとより深く掘り下げられる点もあちらと同じ。本作では『テトリス誕生』『世界中での大ヒット』『ライセンス騒動』『テンゲンの暴走』『テトリスカンパニー設立』などなど、テトリスを巡る一連の歴史が上記5つのチャプターに分けて年代順に紹介されている。
『ATARI50』の時はプラットフォーム(AC/CS/PC)ごとに別々のツリーになっていたので若干時系列が前後する場面があったのだが、本作ではチャプター1からチャプター5まで一本の線でしっかり繋がっているので、順番に読み進めれば時系列通りにテトリスの歴史に触れることができるハズ。
全編を通してフォーカスが充てられているのはアレクセイ・パジトノフとヘンク・ロジャース(Henk Rogers)、まぁ『テトリス』を題材とするならばこの2人に注目せずして誰に触れるのかというハナシである。本作ではまさに『盟友』ともいうべき彼らの絆が最初から最後までガッツリ描かれている。なかでも一緒に『デカリス』をプレイしている場面は2人そろってレジェンドでありながらも『仲のいいおじさんたち』感があって実にほほえましいところ。
同様にヘンク・ロジャースが創業し、後に数々の『テトリス』シリーズを開発していくことになるゲームメーカー『BPS(Bullet-Proof Software)』についても触れる場面が多い。…余談をひとつ挟むと、恥ずかしながら我はいままで日本のBPSを『Blue Planet Software』の略だと勘違いしており、本作で初めて『Bullet-Proof Software』と『Blue Planet Software』が別会社だと知った。いやまぁどっちも創業者は同じだし、だからこそ略称がどっちも『BPS』なんだけれども。
閑話休題、本作の年表では『テトリス』の歴史を学ぶ上で外せない要素の解説テキストのほか、ゲーム作品や当時の開発資料や映像、そして関係者へのインタビュー映像が多数収録されている。なかにはBPSの紹介も兼ねて同社の代表作である『ザ・ブラックオニキス』、『Tetris Effect』へと後に繋がる『Rez』や『ルミネス』などテトリス以外の作品に触れている箇所もそこそこあるのが楽しい。
テキスト主体の解説は必要な情報だけを端的に、それでいてわかりやすく記載してくれているため非常に読みやすい。特にテトリスを巡るライセンス騒動は複数のメーカーの名前が出てくるせいでよく調べないと理解しづらい部分なので、本作のように時系列順に簡潔にまとめてくれるのは非常に助かるところ。
そして長期にわたって任天堂ハードのテトリスを開発してきたBPS…ということもあって関連インタビューでは任天堂に纏わるハナシが非常に多い。後述の『囲碁』のハナシをはじめ、かつての任天堂の社長である山内博氏とのやり取りや写真、項目単位で『ファミコン』『ゲームボーイ』などに触れられている箇所もある。なおお忘れかもしれないが本作はPS5やXboxSeriesXでもリリースされているマルチプラットフォームのタイトル。よって『PS/Xboxで任天堂ハードを重点的に紹介する』という非常に珍しいゲームであるといえる。
(一応『ATARI50』でもドンキーコングは言及されていたが、ハードやスクショが出てくることはなかった)
本作のために用意されたインタビュー映像ではこれまた興味深い内容が多め。インタビュー相手は本作の主役ともいえるアレクセイとヘンクを中心に、ときおり現在のテトリスカンパニー、スペクトラム・ホロバイト、ブローダーバンドといった名だたるメーカーのCEOであるマヤ・ロジャース(Maya Rogers)、ギルマン・ルイ(Gilman Louie)、フィル・アダム(Phil Adam)、ダグ・カールストン(Doug Carlston)も登場。日本からは『Tetris Effect』を手掛けたEnhanceの水口哲也氏が同作や日本におけるアーケード…つまりSEGAのテトリスについて語っている。
インタビュー映像もそこそこ数が多いのだが、ソレと同じくらい充実しているのが『当時の資料映像』。1988年のCES(コンシューマ・エレクトロニクス・ショー)の映像なんかは序の口、本作に収録されている映像にはなんと『ヘンクがテトリスの権利を取得するためソ連(冷戦真っ只中)に初めて足を運んだ時の映像』やら『荒川實氏(NOAの元トップ)に会うため任天堂の米国法人に足を運んだ時の映像』なんてのもある。
冷戦時代のソ連の映像が貴重なことは言うまでもなく、後者も後者で当時のNOAの社内がガッツリ映っており、1980年代後期から1990年代にかけてNOAで行われていたとされるカスタマーサポート(電話口でゲームの攻略情報を教えてくれたらしい)の場面を見て、当時を生きた人間ではない我でも『うわぁ、ウワサ程度に聞いたことがあるNOA電話口の攻略サポート、本当にやってたんだなぁ…!!』と感動してしまった。どうもヘンク・ロジャースは自身の行動をビデオに納めるクセがあるのかもしれない。おかげさまで当時のことをより深く知れるのでありがたいことこの上ない。
ゲームの紹介項目では本作に収録されていないものも多数取り扱っており、『テトリス(AC)』に『TGM(AC)』『テトリスワールド(GC)』といった古いものから『テトリス99(Switch)』『ぷよぷよテトリス2』『Tetris Effect』のような近年のものまでテトリスの歴史において重要な作品が数多くピックアップされている。
発売中止となってしまったかの有名な『メガドライブ版*』は説明書すらも収録。一方で『メガドライブミニ』に収録されたバージョンは別枠になっているあたりは実によくわかっている。そのほかにも『ポケモンショックテトリス(ポケモンミニ)』『V-テトリス(VB)』などのマイナーどころも取り揃えられているほか、『テトリン』…つまり『無許諾で流通した小型テトリス』やその対抗『テトリスJr.』のハナシもある。
*テトリス(メガドライブ)
SEGAがメガドライブ向けに移植した『テトリス』。
マスターアップおよびパッケージの量産も終えていよいよ発売!
発売直前に運悪く任天堂VSテンゲンのテトリスを巡る訴訟合戦が勃発し、
ここで『テンゲンはCS機のテトリスのライセンスを持っていない』ことが発覚。
SEGAはとばっちりを受ける形でメガドラ版テトリスの発売を中止する羽目に…。
とはいえパッケージ化まで済んだブツは簡単になかったことにはできず、
秋葉原などの裏ルートで流通していた…という当時の証言も多い。
本作はPS2の『テトリスコレクション』にてプレイ可能。
なお『メガドライブミニ』にも『テトリス』が収録されているが
こちらは新規移植で、実際のメガドラ版テトリスとは完全に別物。
↑『V-テトリス』にちょこっと触れてる過去記事
ただかなり満足度の高い網羅範囲ではあるものの、一方で流石に歴代のテトリス全てを取り扱っているかというとソレは違う。我がサクッと思い当たる範囲でも『Tetris & Dr.Mario(SNES)』やら『SEGA AGES 2500 Vol.28 テトリスコレクション(PS2)』やら『1作目以外のTGMシリーズ』やら『テトリス with カードキャプターさくら エターナルハート(PS1)』が抜けている。最後のはテトリスじゃなくてCCさくらのキャラゲーだろって?こまけぇことはいいんだよ。
もっとも過去にリリースされたテトリスの数はあまりにも膨大すぎる。そもそもPS1だけですら7本もテトリスが出ているのだ。よって本作の『歴史的に重要度の高いモノだけピックアップする』スタンスになるのは避けられなかっただろう。個人的にはセタの『テトリス64』専用『バイオセンサー』とかいうトンチキ周辺機器を紹介してくれただけで高く評価したい。今の今までスッカリ存在を忘れてたよコイツ。
ちなみにテキストおよびインタビュー内の字幕は全て日本語にローカライズ済み。『ATARI50』では当初日本販売が予定されていなかったこともあってか、一部の数字が表示されなかったり言い回しが微妙にヘンテコだったりとローカライズに若干難があったのだが、本作においては最初から日本向け展開を視野に入れているようで、そういった問題のある箇所は見受けられない。それどころか日本語らしい言い回しウィットに富んだ文章に言い換えられている箇所も見受けられ、明らかに『ATARI50』に比べローカライズに力が入っていることが伝わってくる。
Tetris / Electronika 60 (1984年)
Tetris / IBM PC (1986年)
囲碁 九路盤対局 / ファミリーコンピュータ (1987年)
Tetris / IBM PC (1988年)
Tetris / AppleII (1988年)
テトリス / ファミリーコンピュータ (1988年)
ハットリス / ファミリーコンピュータ (1990年)
ハットリス / ゲームボーイ (1991年)
テトリス2+ボンブリス / ファミリーコンピュータ (1991年)
ハットリス / Nintendo Entertainment System (1992年)
スーパーテトリス2+ボンブリス / スーパーファミコン (1992年)
テトリス武闘外伝 / スーパーファミコン (1993年)
スーパーテトリス2+ボンブリス 限定版 / スーパーファミコン (1994年)
スーパーテトリス3 / スーパーファミコン (1994年)
スーパーボンブリス / スーパーファミコン (1995年)
スーパーボンブリス / ゲームボーイ (1995年)
スーパーボンブリスDX / ゲームボーイカラー (1999年)
テトリス タイムワープ / 完全新作 (2024年)
収録作品は上記の全18本。『ATARI50』の103本と比較すると見劣りする(というかあっちが規格外すぎる)が、一般的なコレクションとして考えれば十分満足できる量である。マニアならラインナップを見て一目瞭然だろうが、本作の収録タイトルは『最初期のPC向けテトリス』と『BPS販売のCS向けテトリス』に大きく二分される。そのためコレクション的観点から本作を一言で表すならば『BPSテトリスコレクション+α』といったところである。
(一部例外を除き)いずれの作品もクイックセーブ/クイックロード、巻き戻し機能やフィルター等が設定可能。ゲームボーイ作品であれば画面のカラーリングをGB実機やゲームボーイライト/ゲームボーイポケット風味にもできる。説明書は当時のスキャンを全ページ分閲覧でき実に至れり尽くせり。
収録作品のうちファミコンなどパッケージソフトとしてリリースされた作品はそれらの作品の箱を再現した3Dモデルを自由に拡大・縮小・回転させて眺めることができる。もちろん裏面の文章なんかも読めるので資料的価値はだいぶ高い。
テトリスは過去様々なプラットフォームにリリースされてきたゲームだが、こうして複数のテトリス作品を収録したコレクションとなると極めて珍しい。日本においてはそれこそPS2の頃に出た『SEGA AGES テトリスコレクション』くらいしか前例がない。時代順に遊んでいけば『テトリス』がどのように進化をしてきたのかを体感できること間違いなし。それではいよいよ本格的に収録作品について早口気味に紹介していくとしよう。目次も用意したので特定タイトルがお目当ての人はすぐに飛べるぞよ。
- 前提知識
- TETRIS / Electronika 60
- TETRIS (アカデミーソフト) / MS-DOS
- 囲碁 九路盤対局 / ファミリーコンピュータ
- TETRIS (スペクトラム・ホロバイト) / MS-DOS
- TETRIS (スペクトラム・ホロバイト) / AppleII
- テトリス / ファミリーコンピュータ
- ハットリス / ファミリーコンピュータ
- ハットリス / ゲームボーイ
- HATRIS / NES
- テトリス2+ボンブリス / ファミリーコンピュータ
- スーパーテトリス2+ボンブリス / スーパーファミコン
- スーパーテトリス2+ボンブリス 限定版 / スーパーファミコン
- テトリス武闘外伝 / スーパーファミコン
- スーパーテトリス3 / スーパーファミコン
- スーパーボンブリス / スーパーファミコン
- スーパーボンブリス / ゲームボーイ
- スーパーボンブリスDX / ゲームボーイカラー
- テトリス タイムワープ / 完全新作
前提知識
混乱を防ぐため、まずは初期のテトリス全般にいえる仕様を先んじて紹介しておこう。大前提としてプレイヤーの有利になるような便利機能はほぼナシ。HOLDやゴーストブロックなんて甘えはもってのほか。それどころかソフトドロップすらも一切存在しない。あるのは任意入力のハードドロップと時間経過の自動落下のみ。そのためスキマにズラしてミノを入れたいときは自動落下を待たなければならない。その昔、初めてファミコン版(後述)をプレイした時にこの仕様を疑問に思ったものだが、本作のインタビュー映像にてその疑問に完璧に答えてくれている。
またテトリミノの回転方向はどちらか一方で固定、しかも『スーパーローテーション*』や『7バッグ*』といったルールもないため、向きによっては回転できないこともあるし、酷い時にはS/Zミノが連続で降り続けジリ貧になることもザラ。あとは細かいところだと『接地後の操作保証時間』もほぼないので落下速度が上がった後にフィールド左右に積み上げるのは至難の業…というのが最初期のテトリスの基本仕様。ここから作品を重ねていって少しずつ遊びやすく洗練された結果が昨今のテトリスなのだ。
*スーパーローテーション
『SRS』とも呼ばれる。
壁や床に密着した状態でそれらにめり込む方向の回転を行っても
自動的に高さや位置を調整して回転してくれるシステムのこと。
コレが無かった時代は位置や回転方向に気を付けないと
『ボタンを押しても回転しない』という事態が容易に発生し
そのまま事故って乙るケースが非常に多かった。
*7バッグ(7bag)
日本では『7種1巡の法則』とも呼ばれる。
テトリミノは全部で7種類が存在するが、
『7種全てが出現するまで同じミノが出てこない』仕様。
このおかげでどれだけ運が下振れしていても
望みのテトリミノが最低13回以内に出現するため
理不尽な運の偏りで死ぬことがほぼなくなった。
むしろ『そろそろあの形が来るな』と読めるようになり、
テトリス自体に新たな戦略性をもたらした革命ともいえる。
TETRIS / Electronika 60
全ての原点ともいえるはじまりのテトリス、それが1984年にアレクセイ・パジトノフとその友人たちが開発した『Electronika 60 (エレクトロニカ60)版』である。エレクトロニカ60とはソビエト連邦で用いられていたコンピュータのことで、アレクセイ・パジトノフらはソ連科学アカデミーの業務の空き時間に色々なゲームを開発していた。テトリスはそのうちのひとつ。表示できるのはテキストのみなのでテトリミノもフィールドもその全てが記号や文字で表されているのが最大の特徴。
本作に収録されているのはあくまで『E60版を忠実に再現したバージョン』とのことなので、正真正銘のE60実機と比較した場合どこかしら差異があるのかもしれないが、それでも本体そのものすらいくつ現存しているかすら怪しいE60版をこうして自分でプレイできるという事実は大きい。本作の収録作品の中でもとびきり資料価値が高い代物だといえるだろう。
E60版テトリスでは1984年版と1985年版を選択可能。この2つはゲーム内容こそ同じながら1985年版ではしっかりしたタイトル画面が用意されている。ゲーム内の文字色はグリーンとホワイトからの選択。またプレイ中にL1を入力することでテキストをロシア語/英語に切り替えできる。まぁテキストなんか一切読まなくても成立するゲームなので気分で変えるべし。
テトリスといえば長期間に渡って生き残ってのスコアアタックがアツいタイトル…、しかしながらこの時代のテトリスはだいぶスコア計算が独特。というのも本作の時点ではラインを消した際のスコア加算が一切存在せず、スコアが上昇するのはハードドロップでの落下時のみなのだ。ゆえに昨今のテトリスで培った知識は全く役に立たないといえる。重要なのは生き残ること、そしてどんなテトリミノが落ちてきても落ち着いて判断することである。…まぁダメな時はとことんダメなので諦めようね。
TETRIS (アカデミーソフト) / MS-DOS
1986年、テトリスが初めて移植されたのが『MS-DOS』、通称『アカデミーソフト版』である。1色だけの世界だったE60版から打って変わって非常にカラフルな画面が特徴。スコアまわりも含めた基本仕様はそのままに、落下したテトリミノのカウントされるようにもなった。また非常に地味ながらライン消しの際にSEも鳴るように。テトリミノの形ごとに個別の色が付けられているため、判別がしやすくなり遊びやすさも向上。一方でやや動作が重く回転入力から実際に回転するまでラグがあるのは注意カモ?
なお本作の移植を担当したのはヴァディム・ヴィクトロヴィッチ・ゲラシモフ(Вадим Викторович Герасимов)という人物なのだが、なんと当時の彼は16歳の学生さん!そんな若人がものの数日でテトリスを移植したという事実には驚きを隠せない。こうしてIBM PCという広く普及したプラットフォーム向けに移植されたことで、あちこちにてコピーが繰り返された結果やがてソ連全土にまでテトリスの波は広がっていくことになる。
囲碁 九路盤対局 / ファミリーコンピュータ
その名の通り極めてシンプルなファミコン向け囲碁ソフト。9路盤での対局が楽しめ、COM相手はモチロン2Pプレイも可能。LESSON(チュートリアル)を搭載しているだけでなく、対局では段階的にハンデを付けられるので初心者から上級者まで楽しめるのがいいところ。聴き飽きないBGMや碁を投げ入れる白黒の忍者などゲーム的演出もナイス。なお我はディスクシステム版を所有していたのだが、本作をきっかけにROMカセット版が出ていることを初めて知った。いやぁ…勉強になるのう。
…ところで、『なんでテトリスのコレクションに囲碁ソフトが混ざってるんだよ!?』と思う人も多かろう。このゲームは後に数多のテトリスを世に送り出すことになるソフトメーカー『BPS』が任天堂ハードに初めて参入したソフトなのだ。当時の任天堂の社長である山内博氏とBPSのトップであるヘンク・ロジャースが実際に碁を打ち合いファミコン参入の契約を締結、ファミコン向けの囲碁ソフトが誕生したことで任天堂とBPSに縁ができ、コレが巡り巡ってCS機向けテトリスの存続やテンゲン絡みの騒動の決着、最終的には『ザ・テトリスカンパニー』の設立にも繋がる…というとんだバタフライエフェクトである。
色々な意味で吹っ飛んだハナシではあるものの、コレについては理由や経緯も含めて本作のインタビューでめっちゃ詳細に語られているので、気になる人はそちらを参照である。なおこのインタビューでは『任天堂は囲碁のゲームを作らない(山内社長に勝てるものでないと出す許可が下りない)』という一部で有名な逸話(事実かは不明)の信憑性を微妙に強める話題が出てきたりする。
TETRIS (スペクトラム・ホロバイト) / MS-DOS
TETRIS (スペクトラム・ホロバイト) / AppleII
囲碁という小休止を挟んでやってくるのが1988年の『MS-DOS』および『AppleII』への移植版。開発はSpectrum HoloByte(スペクトラム・ホロバイト)社が担当。コレが『歴史上初めて一般販売されたテトリス』となる。というのもここまでのテトリスは販路に乗ったものではなかったのだ。ソ連全土でブームになったアカデミーソフト版に目を付けたアンドロメダ・ソフトウェアがライセンスを取得、そのライセンスをミラーソフトへと渡し誕生したのがMS-DOS向けテトリス…『スペクトラム・ホロバイト版』という流れ。
基本システムはそのまま、いままではラインをいくら消してもゲームスピードが上昇(難易度が上昇)するだけだったのだが、本作では10ライン消すごとに背景が変化するようになり、先へ進めようとするモチベーションを維持しやすくなった。またゲーム開始前に難易度のほか『HEIGET』というものを選択可能。HEIGHTを0以外に設定すると開始時にその高さまで雑多にブロックが配置され難易度が上昇する。このシステムは一部形を変えて後のテトリス作品にも取り入れられることになる。
今回は『MS-DOS版』と『AppleII版』の2種類がプレイ可能だがハードスペックの都合上AppleII版は結構な無茶移植。ゲームとしては問題なく成立しているのだが、テトリミノのサイズがまちまちで隙間なく積み上げても色が重なったり、逆にどう見ても(視覚的に)スキマが空いていたりとなんともな状態。しかもテトリミノの形と色に相関関係がなく、毎回ランダムで色が塗られるため『色で判断してたら思ってたのと違う形だった!』という現象が稀に起こる。しかしながらこういう無茶移植は個人的には大好物である。なんというか…愛おしい。
ところでスペクトラム・ホロバイト社はアメリカのメーカーだが、MS-DOS版を売り出すにあたり『ソビエト製!』感を出そうとでもしたのか、背景が聖ワシリイ大聖堂を筆頭にシベリアに宇宙開発に…とソ連/ロシア臭が凄まじいのが最大の特徴。確かにテトリスはソ連で誕生したゲームだが、ここまでソ連/ロシアを全面的に推し出した作風は数あるテトリスの中でも稀な部類…なんだが、本作のインタビューを見るにこれでもソ連/ロシア感は抑えた方らしい。こやつら怖いモノ知らずか。
テトリス / ファミリーコンピュータ
ここまで海外が主戦場だったがここに来てようやく我らが日本の出番。日本国内のCS機向けに初めてリリースされたテトリスが1988年の『ファミコン版』である。開発は先述の『囲碁 九路盤対局』でファミコンに参入し、他のホビーパソコン向けにもテトリスを移植してきたBPSが担当。天下のテトリスがついに家庭用ゲーム機に上陸!…と言いたいところなのだが、このファミコン版は数あるテトリスの中でも特に独自路線に突っ走った代物である。
従来のテトリスはいずれもシンプルな準エンドレスゲームであったが、ファミコン版では『25ラインを消したらステージクリア、クリア後はフィールドがリセットされて次のステージへ』といった形式のステージクリア型のゲームとなっている。ステージ終了時にラインの消し方に応じたボーナススコアが加算されるようになっているほか、テトリスシリーズ全体で見ても珍しいライフ制を採用。画面上部までテトリミノが積み重なった場合、ライフを消費してフィールドがリセットされ最初からそのステージのやり直しとなる。
難易度周りの設定はスペクトラム・ホロバイト版のものに近く、10段階の基本難易度(STAGE)と更に10段階のHEIGHT(ROUND)を設定可能。10面を突破するとご褒美のデモ映像が流れ、ラウンドが1つ上昇して再度0面からスタートする。ステージクリアを目指すうえでもシンプルなハイスコアを目指すうえでも立ち回りはこれまでの…というかなんなら本作よりあとに出たどのテトリスとも異なる独特な面白さがある。またBGMも『TECHNOTRIS(テクノトリス)』『カリンカ』『トロイカ』から選択可能。オリジナル曲『TECHNOTRIS』は非常に格好良いBPSテトリスを象徴するBGM。個人的にテトリス関連楽曲だと一番のお気に入りである。
ところでファミコン版テトリスといえば操作性があんまりにもアレなことでもよく知られている。自動落下orハードドロップしかできないシステムなのは初期のテトリス全体がそう(CS機でコレなのはファミコン版だけだが)だからともかくとして、問題なのはそのキー配置。下キー入力で回転、Aボタンでハードドロップという謎キーコンはどれかひとつでも他のテトリスを遊んだことのある人間であれば誰もが引っかかることだろう。というかこの『Tetris Forever』でもファミコン版の項目で『操作方法が変更可能』ということがわざわざ明記されているし、なんならあるインタビュー映像で遠回しに操作性をアレクセイ・パジトノフ自身から突っ込まれている。
なお海外ではこのバージョンは存在せず、代わりにテンゲン絡みのすったもんだの末に任天堂が自前で開発したNES版テトリスがリリースされている。もちろん内容はファミコン版とNES版でまるっきり別物。NES版テトリスは残念ながら本作には未収録だが、本作の発売に合わせてSwitchのサブスクである『Nintendo Switch Online ファミリーコンピュータ』に追加されることが発表済み。おそらく本作への未収録はマルチプラットフォームの都合なのだろう。
(NES版が収録された場合、任天堂が開発した作品がPSやXboxにリリースされることになるため)
ハットリス / ファミリーコンピュータ
ハットリス / ゲームボーイ
HATRIS / NES
アレクセイ・パジトノフはテトリスに限らず多彩なパズルゲームを考案して世に送り出していた。そのうちのひとつがこの落ちものパズル『ハットリス』。落下してくるのはテトリミノではなく帽子(ハット)、だからこそタイトルもハット+テトリスで『ハットリス』。帽子の種類は全6種類、必ず横並びの2つセットで登場し同じ帽子を5つ重ねると消える。一定回数帽子を消すとステージクリアとなり、フィールドを引き継いで次のステージへと進む。10ステージ*6難易度の全60面で10ステージ突破ごとに次の難易度へと進み、高難易度になると最初から帽子が配置された状態で始まる。なおステージ切り替え時に『SALE』として6種類の帽子から任意の1種類をフィールドから全て消すことができる…というのがベースのシステム。
一見すると縦に積み上げるだけ+落下してくる帽子のパターンも少ないのでシンプルなゲームに思えるのだが、その実『同じ帽子を重ねた際には大して積みあがらず、違う帽子の場合は一気に積み上がり、かつ帽子の組み合わせによって積み上がる幅が異なる』『種類ごとに縦幅が異なるので、均等に積み上げてもズレが生じる』『落下中の帽子は2つとも連動して動くが、一方が接地したあとはもう一方のみを切り離して操作できる』などの仕様を考え出すと一気に頭を悩まされ楽しくなる。基本的に『異なる帽子を積み上げざるを得ない』状況においてどう割り切っていくかが重要視されるゲームとなっている。
なお『ハットリス』は元々アーケードで稼働していたタイトルだが、本作に収録されているのは移植版である『ファミコン版』『ゲームボーイ版』『NES版』の3つ。当時はPCエンジン版も存在したのだがそちらは未収録。PCエンジン版のみBPSではなくテンゲン開発なのが関係しているのだろうか。
なにはともあれリリース順はFC→GB→NESであり、後発ほどクオリティが向上しているほか、いずれの移植版も微妙にルールがアレンジされているため違ったプレイ体験になる。ファミコン版は最初の移植というだけあって、システムも最低限でグラフィックもだいぶ簡素。なんなら一番下のラインに人間の頭がないので『そもそもなんで帽子が降ってくるんだ?』となる人もいるかもしれない。
続くゲームボーイ版ではAC版に存在していた『FIRE』のシステムが形を変えて復活。1手で2回分の帽子を消すことでファイヤーボールを獲得、任意のタイミングでファイヤーボールを落とし落下地点の帽子を燃やしてしまえる。なおファイヤーボールは2つまでストック可能で、2つストックした状態で更にもう一度入手条件を満たすと強制的に全消費され『兜』に変化。兜は消すことができないものの、落下した列の全ての帽子を消すことができる。どのタイミングでFIREを発動するか、はたまた一気に兜で消してしまうかが実に悩ましい。
最後発のNES版はファミコン版から2年も遅れてのリリースということもあり、見た目は比較にならないほど華やかかつかなり特徴的なシステムが組み込まれている。ここに来てようやく最下段に人間の頭が描かれたことで帽子であることの意義を示されたほか、帽子を揃えるたびに即座に消えるのではなくベルトコンベア上を流れていくアニメーション(カットも可)が挿入されるようにもなった。なお人間の顔はステージが切り替わるごとに変化する。
『FIRE』は残念ながら搭載されていないが、その代わりとして『帽子を消すごとにゲージが溜まり、ゲージがMAXになるとおじさんが協力してくれる』というシステムが用意されている。おじさんの呼び出しは最大8回までストック可能で呼び出しタイミングは自由。おじさんは2人いてひとりは『一番下の帽子を捨てる』、もうひとりは『列をまるごと入れ替える』という能力。実はこのおじさん達は説明書にて本作の開発者として名を連ねているアレクセイ・パジトノフとウラジーミル・イワノビッチ・ポヒルコ(Владимир Иванович Похилько)だったりもする。
テトリス2+ボンブリス / ファミリーコンピュータ
いよいよお待ちかね、テトリスのナンバリング続編として世に生み出されたのが『テトリス2+ボンブリス』。その名の通りパワーアップした『テトリス』に加え、新たにテトリスをベースにした新作パズル『ボンブリス』を追加で収録した一本。販売はBPSだが開発元は日本のチュンソフト。本作はFC版『テトリス』の出来に不満を持った有志が集って開発したとされる代物…なのだが、ここで集った有志というのがまた凄まじくプロデューサー石原恒和氏(ポケモンの育ての親)、ゲームデザイン三浦明彦氏(MOTHER2/ポケコロ)、ディレクター中村光一氏(ドラクエ/サウンドノベル)、サウンドすぎやまこういち氏(ドラクエ/シレン)、更に開発協力で遠藤雅伸氏(ゼビウス/ドルアーガ)と宮本茂氏(マリオ/ゼルダ)まで名を連ねているという後の日本ゲーム業界のオールスター状態である。そんなドリームチームが手掛ける作品群なのだから、皆様お察しの通りとんでもないクオリティの高さが特徴。
『テトリス』はGB版やNES版の操作性を採用したことで下入力での『ソフトドロップ』や『テトリミノの左右回転』が可能になり、ゲーム全体の動作も非常に快適。更にエンドレスでプレイ可能なA-Type、FC版同様に一定ラインの消去を目指すB-Type、一定時間経過で下からラインがせり上がってくるC-Typeという楽しみ方の異なる3つのゲームモードも搭載…と非常に豪華。まだ初期テトリス特有の『壁に密着していると特定の向きに回転できない』等の問題こそあるが、ここまで来るともう昨今のテトリスとほぼ同じ感覚でプレイできる。
新ルール『ボンブリス』はその名の通り『爆弾』のシステムを導入したテトリス。基本はテトリスらしくミノを積み上げていくことになるが、このルールではただラインを揃えても消すことができない。ここで出てくるのが『爆弾』である。本作ではときおりミノに混ざって爆弾が落下してくることがあり、爆弾を含めてラインを揃えると爆発、一定範囲内のブロックを消すことができる。爆弾は同時に多くのラインを揃えるほど爆風が広がるほか、広がった爆風に巻き込まれる形で別の爆弾が誘爆することもある。また爆弾が4つ正方形に積み上げられると『デカボム』となり更に広範囲に爆破が広がるようにもなる。『どこに爆弾を配置するか』『どのタイミングで起爆するか』を素早く考える必要があるため、ちょっとばかし間口は狭いが上手いことフィールドを一掃できたときの爽快感は中々に素晴らしい。
ボンブリスのモードは『Contest』と『Puzzle』の2つ、前者は初期配置のブロックを一定数のテトリミノが落下し終わるまでに全消しできればクリアというオーソドックスなルール、後者は初期配置も落下ミノも固定で数手で全消しできればクリアな詰将棋的な内容となっている。気軽に遊べる『Contest』はもちろん魅力的だが、『Puzzle』はなんと驚愕の全90面!完全クリアだけでも骨が折れること間違いなし。オマケに『Construction』として自分でステージを作ることだってできる。総じて本作が初導入とは思えないほど作りこまれているルールだといえる。
スーパーテトリス2+ボンブリス / スーパーファミコン
スーパーテトリス2+ボンブリス 限定版 / スーパーファミコン
先に挙げた『テトリス2+ボンブリス』のスーパーファミコン向け移植版。開発はゲーム業界の縁の下の力持ちのトーセが担当。基本は移植なので『テトリス』も『ボンブリス』も大まかな内容はファミコン版と同じだが、ハードスペックが向上したことで全体的に表現がリッチになっている。接地後のテトリミノの色が1色固定でなくなったというだけで目に見えて華やかさが違う。ただしサウンドは全曲総入れ替え、SFC版の楽曲群もこれはこれでスタイリッシュで格好いいので必聴。オプションからサウンドモードに入れるのも嬉しい。SFC版の『ボンブリス』は『Construction』こそ残念ながらオミットされてしまったが、そのぶん『Puzzle』のステージ数が増加。その数なんと全150面!もちろん『Contest』モードだってあるのでやっぱりやりこみ甲斐がある。
ちなみに今回は通常の『スーパーテトリス2+ボンブリス』のほか『スーパーテトリス2+ボンブリス 限定版』も収録。こっちは通常版から約3年後に一定数だけリリースされた文字通りの限定版。その割には案外市場には流通してたりするのはナイショ。通常版と何が違うのかといえば『ボンブリス』が違う。全60面の『Contest』、全150面の『Puzzle』…その内容が100%別物になっている。つまり『限定版』という名の『ボンブリスの新作』といっていい。だがどのステージも通常版を遥かに超える高難易度なものばかり。要は『わざわざこのゲームを買うほどマニアだってことだよな?だったらこの程度当然クリアできるよな?』といった公式からの挑戦状的な作品である。『マリオ2』とか『チャンピオンシップロードランナー』とかと同じカテゴリってことね。
テトリス武闘外伝 / スーパーファミコン
数多のテトリス関連作がリリースされることとなったスーパーファミコンにおいて、とびきり異彩を放つ作品こそがコレ。『テトリス武闘外伝』と書いて『テトリスバトル外伝』と読む。タイトル通り従来作では2人プレイ専用でメインではなかった『対戦』にフォーカスした内容で、本作ではCOM相手の対戦プレイが可能になった。『外伝』なのをいいことにシリーズでも類を見ない仕様が多い。
昨今の対戦型テトリス同様『テトリミノを消すと相手フィールドがせり上がる』というルールだが、特徴的なのは『互いのプレイヤーがNEXTを共有する』というシステム。このため『いち早くテトリミノを置いて有用なNEXTを確保する』『相手の状況を見計らってNEXTを横取りする』などの独特な戦術を扱うことが可能。うまいこと相手を手玉に取った時の愉悦感はなんともいえない。まぁ油断していると相手に横取りされ続けて絶体絶命の窮地に陥るけどね…。
そしてこれまた本作独自の仕様なのが『必殺技』!時折テトリミノに混ざって『クリスタル』が落下してくることがあり、クリスタルを消すことで必殺技をストック。ストックした必殺技はいつでも上入力で発動可能。必殺技を発動せず新たなクリスタルを消すと4段階までレベルが上昇し、より強力な必殺技を発動できるようになる。プレイアブルキャラは隠し含めて全10名、そのすべてに個別で4種類の必殺技が用意されているため、そんなのが飛び交う対戦はまさしくカオスの様相。だからこそ楽しい。キャラバランスだけは少々アレなのは否定できないが、その分個性が際立っているということで…。またストーリーでもキャラ同士の会話が繰り広げられこれまた楽しい。
スーパーテトリス3 / スーパーファミコン
『スーパーテトリス3』は純粋なテトリスとしては最後のスーパーファミコン向けテトリスであり、同ハードのテトリスの決定版ともいえる一本。毎度おなじみ『テトリス』のほか、テトリスをベースにした新パズルを複数収録。どれをプレイするかはお好みで。『テトリス』は毎度おなじみオーソドックスな内容で変わらない面白さ。本作からはライン消しの度に『SINGLE!』『DOUBLE!』などのボイスが流れるようになっており、着々と演出面がパワーアップしている。モードは前作のA-TypeとB-Typeにあたる『ENDLESS』『STANDARD』の2つ。なお本作ではシリーズ初の4人プレイ可能なテトリス『ファミリス』なんてのもプレイ可能。まぁ我はやったことがないのでコレについては語らない。
『スパークリス』は名前こそ違えど『ボンブリス』の派生ルールで、今回は爆弾ではなくライトニングブロックなるものが落ちてくる。こちらもライトニングブロックを含めてラインを揃えると電流によって周囲のブロックを消すことができるのだが、爆弾とは違いこっちはデフォで縦横に判定が広がる。更に『うまくライトニングブロックを配置し電流で枠を作ると、その範囲内のブロックが全て消滅する』という新たなルールがある。おかげで考えるべきポイントが『ボンブリス』以上に増え難易度も上昇しているが、演出の派手っぷりからコレはコレで好き。そして例によって例の如くこちらは『Contest』と『Puzzle』に挑むことができる。
『マジカリス』は歴代テトリスの中でもだいぶヘンテコなルール。基本はテトリスと同じシステムながら、こちらは一定回数テトリミノを回転させるたびに『色』が変化。ラインを特定の色だけで揃えると『マジカリス』となり、フィールド内の同じ色のブロックを全消しできる…という特殊ルールとなっている。ありそうでなかった『色』をテーマにしたシステムかつうまい具合に並べてフィールドを一掃できた時の爽快感もあって遊びやすいのが魅力。時々混ざるマジカリスで着色しないと消せないシルバーブロックやどの色としても扱える(がマジカリス全消しの対象外になる)レインボーブロックが絶妙にアクセントになっているため、楽勝というわけでもないのがまたいい。落下速度が上昇してからは『接地までに可能な回転数』によって変化できる色の幅が狭まるので一気に難易度が跳ね上がる。
スーパーボンブリス / スーパーファミコン
スーパーボンブリス / ゲームボーイ
スーパーボンブリスDX / ゲームボーイカラー
『スーパーテトリス3』ではタイトルから外された挙句、よく似た『スパークリス』なる新ルールに立場を奪われてしまった『ボンブリス』…だがBPSはボンブリスのことを忘れていなかった!というわけで『テトリス』の枠組みを超え独立を果たしたのが『スーパーボンブリス』。あまりの人気の高さからとうとう単品タイトルとしてデビューである。基本ルールは『スーパーテトリス2+ボンブリス』に収録されていた頃のボンブリスと同じ。今回はおなじみ『Contest』『Puzzle』の2モードを搭載しているだけでなく、新たにCOMとボンブリスで対戦する『VS Com』が追加。
せり上げで相手がダウンするか、或いは相手よりも素早く全消しすることで勝利となるルール。『テトリス武闘外伝』と同じようにNEXTを共有するシステムなのも特徴。ただし敵AIの強さは『武闘外伝』とは比較にならないほどガチ寄りなので、ある程度過去のボンブリスをやりこんでいないと門前払い待ったなし。まぁその分前作からある2モードの難易度は控え目なので、まずそっちで練習してねということなのだろう。対戦ということで『テトリス武闘外伝』同様にキャラクターも用意されている。まぁ必殺技とかはないので見た目以外に違いはないのだが。
『スーパーボンブリス』はスーパーファミコンのほかゲームボーイでも発売しており、そちらのバージョンも収録されている。GB版の『スーパーボンブリス』では『CONTEST』こそ搭載されているが、SFC版の『Puzzle』と『VS Com』はオミット。その代わりとして新モードの『TRAINING』と『FIGHT』を搭載。『TRAINING』はステージクリアの概念がなく、シンプルに爆弾交じりのテトリミノを消しながらゲームオーバーになるまでエンドレスでプレイし続けるモード。テトリス的には割とオーソドックスなルールなのだが、実は『ボンブリス』でエンドレスモードが搭載されたのはGB版が初。
もうひとつの新モードたる『FIGHT』は『フィールド上を逃げ回る敵キャラクターを攻撃し撃破、もしくはフィールドの全消しでクリア』という超変則ルール。敵キャラは常に自由に動き回り、定期的にフィールドをせり上げたり爆弾を除去したりブロックを破壊したりと様々な妨害をしてくる。こちらからの攻撃方法は直接テトリミノで押しつぶすか、もしくは爆弾の爆風に巻き込むか。適当にやるだけではまず倒せないのでテトリミノの置き方を工夫して逃げ場を塞いだり、動き出すたびに押しつぶして動きを封じたりなど様々な策を講じる必要がある。結果として難易度はそれなりに高めではあるが、本作でしか味わえない特有の面白さがある。
GB版の『スーパーボンブリス』から数年遅れでリリースされた『スーパーボンブリスDX』までも収録。こちらは事実上のGB版の完全版ともいうべき作品であり、GB版の要素全てに加え一度はオミットされていた『PUZZLE』が復活を遂げている。個人的には歴代ボンブリスの『PUZZLE』の中で最も解いてて楽しい問題が多かったのはこのDX版である。またゲームボーイカラー対応タイトルとなったので画面に色が付くようになり、このおかげで『FIGHT』に出現する敵キャラ達が更に個性豊かにも。余談だが『スーパーボンブリスDX』は何故か本作(Tetris Forever)の年表に載っておらず、ゲームライブラリ以外から起動できないようになっている。ホントになんで…?
テトリス タイムワープ / 完全新作
そしてここまでも本題だったがここからも本題、本作には新たに開発された完全新作のテトリスまでもが収録されている。その名も『テトリスタイムワープ』!基本はガイドラインに準じたオーソドックスなテトリスなのだが、10ラインを消すごとに次のテトリミノが特殊なデザイン(形状はNEXTのものと変わらない)のタイムワープ・テトリミノに変化、コイツは落下中の時間経過でグラフィックが切り替わり、金色以外の状態で消すとプレイヤーはタイトルの通り『タイムワープ(時間移動)』する。
タイムワープ先は1984年/1989年/1993年の3つ。作品でいうなら『Electronika 60版』『ゲームボーイ版』『テトリス2+ボンブリス』の時代である。タイムワープの制限時間は20秒、20秒が経過すると元の時代…2024年の『テトリスタイムワープ』に強制送還される。
ただしタイムワープ中に設定された条件を満たすことで時間移動は継続、1984→1989→1993…と時代に沿って進んでいく。1993年で条件を達成するとそれはそれで2024年に戻ってくる。条件は時代ごとに固定で1984が一定ライン消去、1989がダブル消し、1993がデカボム起爆…といずれも簡単だが、同時に(おそらく)タイムワープ中にラインを消すとボーナススコアが得られる仕組みもあり、スコア稼ぎとタイムワープの両立を目指すと中々面白い。タイムワープ中はゲーム内タイムがストップするため後述の『タイムワープスコアアタック』はそこそこアツイ。
またタイムワープ中は一時的にゲームのグラフィックや仕様もその時代のものに変化。最初に触れた通り基本はガイドラインに則った仕様だが、タイムワープ中は3つの時代全てでHOLDが封印。1984年(E60)に至ってはソフトドロップの操作で強制ハードドロップになるので置きミスに要注意。総じてプレイヤーが旧作の仕様を理解している前提のゲームルールなので、本作のようなテトリスのコレクション作品以外では許されなかったであろうシステムである。
ゲームモードはエンドレスにプレイし続ける『タイムワープスコアアタック』、3分間のうちにハイスコアを目指す『3分タイムアタック』、極めてオーソドックスな『モダンマラソン』、そして『1989マラソン』の4種類。このうちタイムワープスコアアタックと3分タイムアタックのみタイムワープのシステムが存在する。モダンマラソンは特殊ルール抜きで150ラインクリアを目指すだけなので、おそらくシリーズの歴史上でも珍しいくらいのバニラなテトリス。
1989マラソンではいくつかの条件を課せられたうえで150ラインの完走を目指す。縛りというのは『ハードドロップ禁止』『HOLD禁止』の2点、もちろんタイムワープ・テトリミノも出てこない…つまるところゲームボーイ版に近しい状況でのプレイとなる。ご丁寧にグラフィックやサウンドもGB版をイメージしたもので固定。本作に未収録のGB版はコレで補完してね、ということなのだろう。とはいえ本作の1989マラソンは縛りでそれっぽく見せているだけで、スーパーローテーションが可能だったり7バッグが守られてたりと実際のGB版からは結構かけ離れてたりするのだが。
ひとつ難点を挙げるとすれば『エンドレスがマジで終わらない』こと。というのも本作の落下速度はレベル最大でもTGMシリーズの20Gなんかには遠く及ばず、せいぜいBPS時代の最速時程度しかない。それでもクラシックなテトリスであればこの速度でも理不尽なツモで追いつめられたり、HOLDなどの便利機能が存在しないことでシビアなゲーム性を保っていたのだが、こと本作においてはガイドラインに準じた作りゆえそういった理不尽要素が悉く撤廃されている。近年のテトリスではガイドライン通りの作りであっても対戦型における相手からの妨害やら、落下速度が上昇してからの操作ミスで死ぬケースが多いのだが、本作ではそういったことすらもまず起こらない。
どういうことかというと本作には10ラインごとに挿入されるタイムワープ・テトリミノを金色の状態で接地させ、ソレを消すと『空中に浮いたままのミノが全て落下(=途中の置きミスで空いてしまった穴が全て埋まる)』という仕様が存在するためである。途中でどれだけ悲惨なミスをやらかしたとしても、そこから10ライン消すだけでほぼチャラにしてしまえるものだからまずゲームオーバーになりえないのだ。また、仕様ごと切り替わるタイムワープは若干操作ミスが起きやすくはあるのだが、タイムワープ中のフィールドは通常時から独立している上に、積み上がってもタイムワープが失敗するだけでゲームオーバーにはならない。
つまり『比較的甘めな落下速度』『ガイドラインに準じた設計』『消すだけでリカバリー可能な金ミノ』『独立したタイムワープ中のフィールド』という一つ一つは問題なさそうな要素が全てミックスされたことで、『異様なまでに終わらないテトリス』が誕生してしまっているのだ。参考までにテトリスの実力が平均ちょい下レベルの我ですら、本作の初プレイ時はゲーム内タイムが8時間をオーバーするまで終わらなかったほどである。長時間プレイのテトリスは楽しくはあるが、流石にここまで来るとだいぶ苦痛である。
本作の収録作品はいずれも極めようとすると結構なやりこみが求められるため、全てを遊びつくそうとした場合はかなりのボリュームになること間違いなし。それこそ『ボンブリス』系列の『PUZZLE』を全突破するだけでも相当なプレイ時間になることだろう。実績/トロフィーは『ATARI50』のソレに比べるとかなり控え目な難易度。強いて言えば『テトリスタイムワープ』のT-Spin Tripleが初心者にわかりづらいという程度で残りは『E60版で100ライン突破』『タイムワープの各種モードで一定スコア突破』といったシンプルなものばかりなので、絶妙に挑みやすい目標として機能している。
収録ラインナップ自体について不満がないといえば嘘になる。収録作品は非常に多いが、それでも『やっぱりあの作品は収録してほしかった』という思いもなくはないのだ。過去にリリースされたテトリスはそれこそ星の数ほどあるので全種類の網羅など土台不可能なハナシ。しかしそれでも本作に収録されているのはあくまで『最初期のPC版』と『BPS販売のシリーズ作』だけなので収録作品の偏りは否定できない。
海外のクラシックテトリスのスタンダードともいえるNES版に関してはSwitchユーザーならばNSOでフォローできる(予定)とはいえ、やはり日本のテトリスブームの立役者といえるSEGAのアーケード系テトリスが軒並み未収録なのは痛い。…いやまぁそれこそSEGA関連のテトリスはSEGA主導の『SEGA AGES 2500シリーズ Vol.28 テトリスコレクション』なんてのが過去に出ており、そちらでめぼしいものはだいたいフォローできているのだがアレももう18年前のゲームなので…。
年表上ではテトリスのライセンスを巡る負の歴史にもしっかり言及されているのだから、こういう機会こそ曰くつきの『テトリス(メガドライブ)』や『TETЯIS(NES)』*とかを収録してくれてもよかったのに…と思ってしまったり。『ATARI50』の時は当時の未発売タイトルもいくらか収録してくれてただけになおさらそう感じてしまう。『ATARI50』とは異なり隠しゲームの類が一切存在しないのもちょい残念。流石に読破率100%で何かあるだろうと思っていたのだがなにもなかった。
*TETЯIS(NES)
テンゲンがNES(海外ファミコン)向けに移植した『テトリス』。
同じくテンゲンが出していたアーケード版ベースの内容。
実を言えば非公式な手段で任天堂からコードを盗用するという
グレーを通り越したブラックな手段で開発・製造された代物。
当然任天堂(NOA)からの許可は得ていないなか強行販売された。
結果的にテンゲンは任天堂から訴訟される羽目になり、
巡り巡ってメガドラ版すらをも巻き込みお蔵入りとなった。
あと収録作品絡みで困った仕様なのが『1度ゲーム終了orゲーム内リセットをすると各ゲームのセーブデータが初期化されてしまう』という点。先にも触れたように収録タイトルのほぼ全てがQSに対応しているため、都度都度QSしておけばいいとはいえ、元がオートセーブだった作品まで手動でセーブしないといけないのが地味に面倒である。あとこのせいで『Contest』の裏面(31面)以降の解放にリセットが必要な『スーパーテトリス2+ボンブリス(通常版/限定版)』では抜け道的な方法を使わないと解禁できなくなっていたりする。このあたりは早急に修正していただきたいところ。
さてさて、『テトリス』という作品は誇張抜きで『世界で最も有名なゲームのひとつ』である。ゲーム作品が途絶えることなく出続けていることもさることながら、その単純明快なルールゆえに多くの人々に受け入れられ、ゲーマー・非ゲーマー層の両方から高い支持を獲得。ゲームプログラマーを志す学生が学習用途で開発してみたり、プレイヤーのPTSDを抑止する旨の研究報告が行われるなど、もはやテトリスはゲーム業界に留まらないエフェクトを人類に与えているといえるやもしれない。
だがその一方で我々の元に『テトリス』というゲームが届けられるまでに紆余曲折があったということはあまり知られていない。米ソ冷戦の緊張や数多のメーカーによるライセンスの奪い合い、その後にも数々のドラマがあった。本作『Tetris Forever』ではそんな『テトリスの歴史』を遊びながら学ぶことができる、まさしくテトリスやゲーム業界の歴史に興味を持った人間にとって必携の一本である。もちろんコレクション作品としてもそこそこやりごたえがあるため、歴史に興味がなくとも満足はできるハズ!
それでは最後に本作を起動した際に表示されるアレクセイ・パジトノフ、ヘンク・ロジャース両氏のメッセージでこの記事を締めくくらせていただこう。
他のすべてのゲームが
消えても
テトリスは残り続けるだろう
テトリスをプレイしたまえ、友よ
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