日本どころか世界中で知らぬものはいない、任天堂が誇る大スター。
スーパーマリオ。
大スターともなれば、そりゃあもうあちらこちらから協賛(コラボ)のお誘いがあるワケで、今も昔もマリオさんは引く手数多であった。中には『ええ?そんなところからもお誘いが来る?』と思ってしまいそうな業界とのコラボもあったのだが、それもある意味大スターのサガである。
さぁ、今宵語るは『帰ってきたマリオブラザーズ』!
プラットフォームはディスクシステム、つまりファミコン。
ディスクは1枚、A/B両面を使用する。
発売は1988年、まだマリオが大スターになって間もないころである。
さて、ここで今一度記事冒頭にあったタイトル画面を見てみよう。
コピーライトの場所に見慣れない企業があるはずだ。
『NAGATANIEN』…ナガタニエン…そう、『永谷園』である。
ふりかけ・お茶漬け・レトルト食品でお馴染みの、あの『永谷園』である。にわかには信じがたい話だと思うが、『永谷園』がマリオのゲームを出していた時代があったのだ。それでは、この知る人ぞ知る『永谷園のマリオ』について語っていくとしよう。
『帰ってきた』とタイトルにあることからもわかるように、今作はファミコン初期(1983年)に発売された友情破壊ゲームこと『マリオブラザーズ』の移植、というかリメイクである。同じハードでリメイクが出るというのは中々違和感のある話だが、そこはディスクメディア…ディスクシステムのパワーの見せどころである。
(アーケードアーカイブス版)
まずは一応ゲームルールの説明をしよう。
『マリオブラザーズ』はステージクリア型の固定画面アクションであり、各ステージ(PHASE)に登場するシェルクリーパー(カメ)・サイドステッパー(カニ)・ファイターフライ(ハエ)たちを真下から叩いてひっくり返すことで撃退し、全滅させることでPHASEクリア、次のPHASEへと進み、最終的にはループするスコアアタックゲームである。
…一応説明したけど多分あんま必要ないよねここ…(小声)
『ドンキーコング』と並んで『マリオシリーズの原点』とされる作品だから移植回数も多いしルールもみんな知ってると思うのである。
(アーケードアーカイブス版)
さて、根本的な話であるが、そもそも『マリオブラザーズ』はアーケードゲームである。アーケードで人気を博した『マリオブラザーズ』を移植したのがファミコン版であり、『帰ってきた~』はその更にリメイクにあたる。つまり、今作は『アーケードの家庭用移植のそのまたリメイク』である。ややこしいったらありゃしない。
(ファミコン版)
当然、アーケード基板とファミコンのスペックが同じなハズがないため、ファミコン版ではアーケード版のいくつかの要素が削られることとなった。
わかりやすいもので言うなら中盤以降のPHASEで登場する『つらら』がファミコン版だと完全に抹消されている点や、一部PHASE開始時のアトラクトデモがなくなっている点。細かい箇所だとアニメーションパターンがちょっと減らされていたり、一部の敵キャラのサイズが違っていたりしていた。
と、ここまでが『ファミコン版』についての解説、ここからが今作、『帰ってきたマリオブラザーズ』での変更点である。
まずはファミコン版で削除されていた『つらら』の復活、そしてファミコン版で小さくなっていたファイアボールがアーケード版同様のサイズになり、更にアニメーションパターンも増えた。つまり、アーケード→ファミコンの移植で削除されていた各種要素が今作で復活したのである。
(アトラクトデモだけは今作でも復活せず削除されたまま)
ただし、『ジャンプ中の挙動』に限ってはファミコン版でアーケード版と同じ仕様だったにも関わらず、今作で完全に別物に変わった。『ジャンプ中の挙動』とだけ言うとかなり微妙な違いに感じられるかもしれないが、実際にプレイしてみるとその違いは一目瞭然。
というよりもアーケード版/ファミコン版では『ジャンプ中に方向転換が一切できない(=ジャンプ後は減速できず慣性のまま動き続ける)』という特徴があり、かなり癖のある操作性となっていたのだが、コレを『ジャンプ中に加速&減速&方向転換可能』という現代における一般的なアクションゲームの仕様に変え、より直感的な操作を可能にした感じである。
このおかげで今作の難易度はアーケード版/ファミコン版よりも大幅に下がっており、プレイの間口を広げることにも繋がっている。のちの『Classic』や『GBAのリメイク版』でも今作の仕様が採用されているあたり、この仕様変更は大正解だったのだろう。
更に、ディスクシステムなのでデータの保存も可能。流石に中断セーブなどといった気の利いた機能は存在していないものの、やはりハイスコアを保存できるようになったのは大きい。これでハイスコアを目指すモチベーションもかなり上がるハズ。
タイトル画面の直後のメニューでは『オリジナルマリオブラザーズ』と『ながたにえんワールド』の2つのモードをプレイ可能、といってもこの二つはほぼ同じ内容なので拘りが無ければ専ら『ながたにえんワールド』で遊ぶことになると思うケド。
『オリジナルマリオブラザーズ』は読んで字の如く『オリジナルに限りなく近いマリオブラザーズ』をプレイ可能。上述した通り、今作は『ジャンプの挙動が違う』点と『アトラクトデモが存在しない』点を除き、アーケード版とほぼ同じ仕様となっているため、オリジナル通りの楽しみ方ができる。
そしてもう一つの『ながたにえんワールド』、コレがある意味今作の本体である。『ながたにえんワールド』では基本システムこそ『オリジナルマリオブラザーズ』と同じ仕様・同じルールだが、こちらではゲームオーバー時にスロットゲームがプレイ可能なほか、一定スコアオーバーで特殊な演出が入るようになっている。
ゲームオーバー時のスロットゲームでは3列のリールを止め、絵柄が揃えばエクステンド、最高で4機増加可能。エクステンド後はスコアを引き継いだ状態でゲームオーバーになったPHASEの最初から再開、絵柄が揃わなかった場合はそのままゲームオーバー画面に直行する。1プレイ中にスロットゲームができるのは1回限りとなっているのであくまで気休め程度のシステムだが、やはり残機が増えるとテンションも上がる。
そして、プレイ中にスコアが10万点/20万点をオーバーするとPHASEクリア後に専用の演出が流れ、永谷園にはがきを送るよう指示される。コレは当時行われていたキャンペーンであり、一定スコアオーバーのプレイヤーに対し抽選でマリオグッズがプレゼントされていたようだ。20万点オーバー時のマリオたちの浮かれようは必見である。
『オリジナルマリオブラザーズ』『ながたにえんワールド』のどちらでも開始時にディスクの入れ替えを要求されるが、一度入れ替えた後はタイトル画面に戻らない限りディスクを入れ替える必要はなくなるので便利。リトライもすぐに可能なほか、プレイ中にリセットボタンを押せばすぐにPHASE1の最初から始められる。
唯一の欠点…と言っていいかはわからないのだが、今作ではプレイの開始時に永谷園のCMが挿入される。CMは『永谷園の五目チャーハン』『マリオふりかけ』『永谷園のお茶漬け』の全3パターン、どれも個性豊かかつ専用BGM付きなうえ、なんと『お茶漬け』のCMでは北島三郎氏までもが登場するという何ともシュールな内容。CMの時間は一回あたり15秒前後と長いような短いような微妙な長さである。
このCMは見ていて面白い内容ではあるのだが、スキップ不可となっている。AボタンもBボタンも受け付けず、STARTボタンでは一時停止する。『スポンサーのCMを飛ばすな、ちゃんと見ろ』ということなのだろう。
まぁコレが流れるのはタイトル画面からプレイを開始したタイミング(厳密にはA面からB面への入れ替え直前)だけなのでそんな頻繁にタイトル画面に戻ろうとしない限り煩わしく感じることはないと思うが。
なお、メニュー画面の『おしらせ』からは『ながたにえんワールド』のキャンペーンについてシェルクリーパー(或いはノコノコ)から説明してもらえる。要約すると『10万/20万点オーバーのスコアを出した時に表示されるパスワードをはがきに書いて送ってね!』という内容、時代を考えれば仕方ないとはいえドエラいアナログな方法である。
ちなみに応募受付期間は『1988年11月』から『1989年5月』までなので今の時代に送っても無駄である。当たり前だが送らないように。
今作はパッケージによる販売は一切されておらず、ディスクライター*による書き換え専用タイトルとなっている。これ自体はディスクシステムだとさほど珍しい話ではないが、ちゃっかり書き換え費用が他よりも安い400円となっていた。
(通常の書き換え費用は500円)
*ディスクライター
ディスクシステムが現役だった時代に店頭に置かれていた機械で、コレを使ってディスクシステムのソフトを書き換えることができた。
現在は任天堂に全て回収されてしまっており、現存するのは任天堂社内にある1つのみ。任天堂に回収されてからも郵送による書き換えサービスは行われていたようだが、こちらも2003年に終了している。
ちなみに自分は物心付いた頃には完全に撤去された後だったため、ディスクライターの実物を見たことも書き換えたこともない。
これは上述したゲーム開始時のCMが深く関係しており、『飛ばせない永谷園のCM広告がゲーム中に存在する代わりに、他のタイトルよりも安く書き換えることができた』というオチである。
まぁ理屈はどうあれこの影響で今作の定価はまさかまさかの『400円』である。当然ながら今作よりも安いマリオシリーズは存在しないため、今なお今作は『マリオシリーズ史上最も定価が安いゲーム』としてシリーズの歴史に名を残している。
とはいえ、この無茶苦茶なタイアップ故に移植が一切行われないというのがある意味今作最大の弱点とも言える。以前(といっても1年半前だが)に語った『タイムツイスト』や『遊遊記』といい、ディスクシステムはこういう『何らかの要因で移植できない作品』が非常に多いのが困ったところである。
なお、この記事では今作を『ファミコン版マリオブラザーズの決定版』のように評したが、厳密にはコレは間違いである。というのも、1993年に欧州限定で『Mario Bros. Classic』という今作を更にアーケード版に近付けた作品がNESで販売されているのである。コイツはガチのレアモノであり、残念ながら自分は持っていない。だが、そんな『真の決定版マリオブラザーズ』が欧州のNES限定で存在することは知っておいてほしい。
(アーケードアーカイブス版)
ただ、身も蓋もないことを言ってしまうと、『マリオブラザーズ』は2017年にNintendoSwitch向けでアーケード版の完全移植が配信されているため、今作も『ファミコン版』も『Classic』も歴史資料以上の価値はほぼなくなっているのがツライところ。
しかし、上記3バージョンの中でも今作は特に異質であり、とりわけ『ながたにえんワールド』に限っては他の移植にも存在していない、正真正銘今作限定の強みともいえる部分である。
生憎今作そのものの移植は一切行われていないため、手放しにオススメはできないものの、もしもディスクシステムを持っているというのであれば、ぜひともプレイしてみてほしい、そんな歴史的な一作である。
---オマケ---
(今回は試しにダイジェスト動画も用意してみたのである)