気になってはいたけどやったことがなかったので最近購入してプレイ。
今作はゼルダシリーズで異様な存在感を放つ男である『チンクル』が主人公。
チンクルの初登場は『ムジュラの仮面』で、この当時はまだ一介のマップ商人でしかなかった。
チンクル~チンクル~クルリンパ!という謎セリフのせいでキャラは立っていた気はするけど、ぶっちゃけムジュラはそれ以外のモブも含めて全員がキャラ濃いのであんまり一人だけ飛びぬけている感じはなかったような。
でも、視覚的なインパクトは間違いなく一番だし、だからこそ独立したスピンオフの今作が作られたんだと思う。
ちなみにチンクルの外見は『全身緑タイツのオッサン』である。
ザ・ファンタジーな本家ゼルダの主人公リンクと比較するとその差は歴然。
このゲームの話に戻すと、今作はチンクルを主人公にした『RPG』なのである。
しかし、RPGらしからぬ要素もかなり多い。
まず、今作に成長の概念はない。
チンクルは最初から最後まで能力は変わらない。
一貫して冴えないオッサンのままである。
装備品による強化みたいなものもないため、
中盤以降の雑魚あたりになると一方的にボコられるハメになる。
(ダメージは入るので頑張れば倒せないわけじゃない)
なので、ゲームを進めるたびに自分の代わりに戦ってくれる『用心棒』と契約する必要がある。
そして、今作は何よりも『カネ』が重要視される。
(ゼルダ世界のカネ=ルピー)
今作はゼルダシリーズどころかゲーム史でも最大クラスでルピーが必要になる。
例えば、RPGにおけるお約束である『街での情報収集』をしたいとする。
まず、最初は街に入れてもらえない。
通行料を門番に支払わない限り、一歩も街には入れない。
通行料ぐらいならいいかとルピーを支払い、街に入る。
身近な店に入ろうとすると、問答無用で店仕舞いをされる。
この世界では、ルピーを払わないヤツには口すらも聞いてくれない。
どうにもならないのでお店の人にルピーを渡し、情報を聞こうとする。
そうすると、今度は情報料としてルピーを要求される。
この世界ではこんなんばっかである。
おまけに、ゲームを進めるためには大量のルピーを奉納しなければならない。
ちなみに、それ以前にチンクルにとってルピー=HP=命なので、
ルピーが尽きた瞬間、チンクルは問答無用で絶命する。
世界そのものがチンクルを殺しに来ている。
馬鹿正直にルピーを大量に使っているとあっという間にチンクルは死ぬので、ゲーム中ではいかにして支払うルピーを安く、貰えるルピーを高くできるか『交渉』する必要がある。
ルピーを支払う場合、いくらを支払うか提示することができる。
この時、払う額が安すぎる場合、ルピーだけ取られて何もしてくれない。
逆に高すぎる場合、必要以上に支払ったルピーは無駄になってしまう。
ある程度ヒントは貰えるが、最終的にはプレイヤーの匙加減次第である。
用心棒を雇う場合だと、更に支払った金額次第で強さも変わるのでよく考えて交渉しなくてはならない。
受け取る場合は受け取る場合で、遠慮して少ない額を提示してしまうと本当にその金額しか貰えない。
かといって高すぎる額を出すと支払ってくれずタダ働きになってしまう。
この『交渉』が実に面白い。
戦闘は超シンプル。
敵とぶつかった瞬間に戦闘開始、敵と味方の体力がお互いに減り続ける。
(チンクルの場合ルピーが減っていく)
プレイヤーのすることは連打だけ、用心棒の強さがプレイヤー側の強さの大半を占めるので深く考えることはない。よくも悪くもシンプルでわかりやすい。
しかし、ボス戦はそれまでの戦闘とは異なり別ゲーとなり、飽きさせないように工夫されている。
シナリオの分岐のようなものはないのだが、
奉納するルピーさえ稼げば物語自体は進むので、自由なプレイスタイルで遊ぶことができる。
名産品を売るのも良し、サブシナリオ(みたいなもの)を進めるもよし、神殿を攻略して一気に多額のルピーを得るもよしである。
神殿は最終的に全部攻略する必要があるので神殿→それ以外の順に攻略すれば遊びやすい。
次にストーリーだが、こんな感じである
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神様っぽい爺さんがルピーを集めれば『ルッピーランド』という楽園に
連れて行ってくれるとか言っていたので、
35歳無職のチンクルはルッピーランドに行くためにルピーを稼ぐ
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どことなく電波だが、こういう世界観なので割とすんなり受け入れられる。
バカゲー感全開なシナリオではあるが、しんみり展開や燃え展開もあり、時には考えさせられるような描写も多くて面白い。
特に、『35歳無職彼女無し緑タイツ』というどっからどう見てもアレな人間のチンクルが(本人はカネ以外何も考えていないとはいえ)多くの人の悩みを聞いたり、助けたりするうちに、やがては英雄として世界を救うようになっていたりするという謎のギャップがいい。
『最初はダメ人間だった主人公が、多くの人々との出会いや別れを経て、真人間として英雄らしく成長していく』みたいなストーリーはよくあるタイプだが、今作の凄いところは『一貫してチンクルはダメ人間のまま』というポイントにある。
周りの人物は勝手に勘違いしてチンクルを英雄であるかのように祀り上げるが、結局チンクルはチンクルのままなのである。
決して王道なRPGではないものの、色々な人に進めたくなる不思議なゲームであった。